【わたしの看護婦さん/神戸貴子さん、インテージ/深田航志さん 鼎談】
高齢者とデジタルの現実 ~高齢者のデジタルデバイド解消と、その先の未来~

2021.08.05 座談会

 

 デジタルデバイド解消のカギになりそうなスマートテレビ。第三部では、そういったデジタルデバイスが高齢者市場へ参入していくにあたり、課題は何か? 解決法は何か? 神戸さん、深田さん、それぞれの視点で未来への期待や希望を語っていただきました。

 

〔第三部〕…最新デジタル機器の高齢者市場への参入と、その未来について

高齢者の実情を、もっとデジタルの開発現場に取り込めたらよいのに

——では、最後のテーマに移りたいと思います。スマートテレビなどが普及すれば、高齢者には非常に大きな便益をもたらすと思われますが、実際はそう簡単ではないようです。例えば全国のシビックテック(「シビック」Civic・市民と、「テック」Tech・テクノロジーをかけあわせた造語。市民自身がテクノロジーを活用して行政サービスの問題や社会課題を解決する取り組みのこと)といったものの製品も、導入・普及に苦労することも多いと聞きます。新しい技術や製品の高齢者市場での実証実験など、デジタル機器の高齢者市場への参入とその障壁について、お考えを聞かせていただけますか?

神戸)高齢者にはタブレットやスマートフォンに対して拒否反応もあるんですよ。年齢とともに新しいものへのチャレンジ精神が減っていく、守りに入ってしまう。新しいテクノロジーの、こういうものを差し上げますからどうぞ使ってくださいと言っても、ボタンがたくさん付いていたりして、どれが主電源か分からない状態で、そこにストレスを感じてしまう。デジタル機器に対するストレスを省くための作業も必要だと思います。
 さまざまな技術開発チーム、デジタルの専門家の皆様には、高齢者の声・意見も取り入れてほしいと思っています。「デジタルに詳しい方とは異なり、高齢者はそういうふうに物を見ていませんよ」と感じることは多いです。高齢者や障害者の方々がストレスを感じない社会、暮らしを創ることは日本国民、世界の人々のストレスも減らすことになるんじゃないかと考えています。

——行政とシビックテックの連携や、スマートシティなどの重要な柱の一つがヘルスケアだと言われています。そんな中では高齢者のデジタルへの拒否反応などは、何とかして越えていかねばならない壁だとは思うのですが、今の神戸さんのご意見に対して深田さんは何かございますか?

深田)先ほど海外、エストニアの事例がありましたけども、真似して日本でできるかっていうとそれはそれで難しいと思います。ですので、繰り返しになりますが、やはりカギになるのはテレビのリモコンではないか、と。さっき神戸さんが言われたように、地方でもつなげるインターネットの回線状況は、もうラストワンマイル(サービス事業者と利用者を結ぶ最後の区間ということ。通信事業社や物流事業社が特に強く抱える課題)の直前まで進んできていると思いますし。
 高齢者にスマホとタブレットを持たせるよりも、ご自宅のテレビを使って、テレビのリモコンを流用して課題を解決する仕組みをつくる方がいいのではないかっていうのが、僕の個人的な意見です。

——70代、80代の方たちが「やってもいいな」と思えるきっかけづくり。例えば何かありますでしょうか。

深田)一番わかりやすいのが、チカクというベンチャー企業が作っている『まごチャンネル』という商品とサービス。遠くに暮らす親に、子供たちの様子をもっと手軽に届けられたらと、そんな思いから生まれたサービスです。特徴は、高齢者たちが慣れ親しんでいる自宅のテレビを介して、娘息子さんが送ってくれるお孫さんの動画を簡単に視聴できる点です。これはすごくわかりやすくて、画期的だと思いましたね。本体にSIMカードが内蔵されているので、家の中にネット環境がなくても使えるんです。プラグをコンセントに挿すくらいであれば、高齢者でも比較的容易にできるわけですし。
 「離れたところに住んでいるお孫さんと会話したい、会って話せなくても動画を見たい」というモチベーションは非常に強いと思います。電話もいいですけど、テレビで画面を通して見たい・話したいという気持ちはあると思います。現在、ZoomやYouTubeに慣れている我々と違い、高齢者にとってデジタル動画ツールは難しいですしね。

——深田さん、今後スマートテレビは、どのように進化していくと思われますか?

深田)今後はどうなるんでしょうね。もし、先ほど僕が示した(スマートテレビの普及率)32~33%がこれから50%ぐらいまでは行ったとしても、そこから先も同じように(普及率が)伸びるのかは疑問視しています。

——神戸さん、今後の高齢者向けのスマートテレビ、高齢者向けデジタルデバイスは、どのようなものであるべきだとお考えですか?

神戸)昔と違い、今の高齢者は趣味も思考もすごく多種多様です。ですので「高齢者は~」と一括りにはしないほうがよいのではないでしょうか。ただし、身体はなんだかんだいっても皆様、それぞれに衰えてきます。視力が衰えてくる、認知機能が衰えてくるなど。
 だからこそ、リモコンの電源オン・オフボタンはどのメーカー製も赤色、といった風に統一していくとか、そういった配慮も必要だろうと思います。耳が遠くても動画が見られるように文字が出てくるとか、そういうユニバーサルデザインにもなお一層力を注いでいただけたらなと思います。

——なるほど。ちなみに、先週インタビューに伺った高齢者地域コミュニティの話ですが、ある男性がYouTubeをやりはじめたんですね。酒場に行って飲んでいるだけの動画なんですけれども、それが面白くて。そうしたら、「あの人ができるんだったら私も(YouTubeを)やろう!」といった感じで、周囲の人たちにどんどん広がっていったんです。すると今度は別の人が手芸の動画でいっぱい「いいね」をもらっちゃって。そうしたらさらに、「じゃあ、私もやろう!」みたいな波及効果が。このように「何か楽しめそうだ」というきっかけがあればデジタルに対する障壁は下がるものの、その前で躓いている人が多いってことなんでしょうね。

——では神戸さん、今後のスマートテレビに期待することなどあれば教えていただけますか。

神戸)まず期待するのは通信インフラの整備ですね。簡単に繋がることも重要。そして、高齢者を孤立化させない、ひとりぼっちにさせないための高齢者フレンドリーなデジタルデバイスの普及。スマートテレビが情報を見るばかりではなく、自分からも発信できるし、会話もできるようになればよいと思います。
 高齢者たちの自立した移動手段はどんどん少なくなっていきます。でもそれを失ったとしても「ボタンひとつで、遠くにいるお子さんお孫さんであったり、ご近所の人たちや、昔ご近所だった人で別の地域に引っ越していった人とも会話できますよ、動画でお便りも送れますよ」という風になれば、すごくいいなと思っています。
 いま、コロナで大変ですけれども、この先、コロナが収束したとしても、恐らく病院や介護施設へのお見舞いについては相当な規制が続くと思います。そんな時に、テレビを通じて、入院しながらでも病院の外にいる家族とつながれるなど、生活が豊かになる温かみのあるものができるといいですね。

 

介護現場はデジタルが苦手。それでもいつかは、人出不足、人材不足もテクノロジーで解決できるようになればいい

——それでは最後に、神戸さんの事業の今後の展望・今後の抱負をお聞かせ願えればと思います。

神戸)私がずっと考えていて、皆さんに訴えたいのは「家族だけで介護をやりきろうとする、がんばり過ぎるのはやめましょう」「家族だけで介護することが、必ずしも美しい姿というわけではないんです」ということです。血は繋がっていなくても、他人に任せるといいますか、東京から息子はなかなか帰って来られなくても、お隣さんでも駆け付けられるような、そんなサービスをつくりたいと思っています。
 いま私たちのサービスは看護師、介護士が担っていますが、人数には限界があります。ですので、例えばお隣さんが駆けつけて助けたり、私たちが遠隔地・鳥取からタブレット、スマートテレビかもわかりませんけども、繋がっていて、遠く離れた北海道にいるフリーの看護師が、駆けつけたご近所さんに対して「こういうときは、こうしたほうがいいですよ」って伝えて手助けできたり・・・とか。

 その一方で、私たちのいる介護現場・介護職員の現状ですが、どこの地域であっても、まさにデジタルデバイド・・・デジタル化から一番遠いところにあると思っています。LINEくらいはどうにかできます。しかし、それ以上のこと、例えば「こんな新しいシステムを使いましょう」などということは本当に苦手。
 介護職員というものは本来、愛情だけで生きているような、いわゆるナイチンゲール精神がたっぷりあって、患者様や介護者様へ実際に手を差し伸べて、ご本人の身体をさすること、これがベスト!と思っている部分があるんです。私たちはそのような教育を受けて育ってきているわけですから、デジタルに疎い、苦手という結果は当然のことかと思います。

 ただ、これからはシステムをうまく使いながら仕事をしていかないといけません。養成の段階からデジタル化推進に向けての教育をしていく、それがとても大事なところ。介護業界は人手不足です。だから今後に向けてはさらに、いかに働く人たちの身体の負担、作業負担を少なくできるかが大切です。デジタル、テクノロジーを使いながら、介護労働者の負担を軽減しましょう、という流れが来ていると感じています。
 本当に現場で働ける人口は減ってきますから、テクノロジーを使いながら、人手不足など課題を解消することなどに挑戦していきたいです。実際、弊社では本当にそういうシステムを作りつつありますので、これから期待していてください。

(神戸「人手不足をテクノロジーで補える未来を希望します」)

——はい、期待しております。では最後に深田さん、本日の気づきなどがありましたらお聞かせください。

深田)こんな記事があります。

(キャッシュレス化で4兆円が浮く? 消費者にとってのメリットと注意点)
https://www.bcnretail.com/market/detail/20190526_119765.html

 

 これはBCNさん(IT系ニュースメディア)の記事なんですけれども、キャッシュレス化で4兆円浮くと。要するに今まで現金、紙の紙幣には人の作業やチェック時間が必要不可欠でした。時間がかかるということは、すなわちお金もかかるということです。これがデジタル化、キャッシュレス化されると、省略できる作業が増えて、日本経済にとってもいいよね、と。
 最近では「高齢者ワクチン、各地で混乱。有料で予約代行も」といった報道もありました。これは1,000円で、まさにデジタルデバイドの中で、高齢者が苦手としているワクチンのインターネット予約を代行します・・・というサービスなんです。高齢者が苦手としている作業代行は新しいビジネスになるという側面と、どんな形であれ高齢者のワクチン接種が進めば、みなさんどんどん旅行にも行くでしょうし、それによって経済が活性化するということも見てとれます。
 つまり僕は、先ほど神戸さんが言われたみたいに、ご高齢の方にもやさしいUI(ユーザーインターフェイス)でどんどんデジタルツールやサービスを高齢者が使いこなせるようになれば、日本全体にハッピーな未来が待っていると思っています。
 今回のコロナで多くの国民の方が、日本のデジタル化が、様々な分野で遅れていると感じたはずです。そこをどうにか変えるっていうのは、一事業者が頑張ってできる部分ではありません。日本政府が国を挙げてどんどん取り組むべきですよね。

 

「デジタルわかる化研究所」には、さらなる情報発信、高齢者になる自分たちに未来の選択肢提案をし続けてほしい

——最後にこの「デジタルわかる化研究所」について、期待あるいはメッセージをいただければと思います。神戸さんよろしくお願いします。

神戸)はい。本日はありがとうございました。すごく楽しかったです。こうやってデジタルわかる化研究所さんが、高齢者の暮らしやデジタルデバイドについてたくさん発信をしてもらうことで、私たちも自分の親の介護をしながら、その未来を意識しながら生活できるようになります。
 「将来は、自分の娘たちに介護は委ねられないな。だったら、どうやったら、自分のウェルビーイングは実現できるの?」などですね。ロボットを使った生活であったり、こういったテクノロジーに染まったような生活にどんどんなっていくことは目に見えているわけですから。「だったら私たちは、自分たちの子供たちに頼らずして、テクノロジーと共存して生きていく必要があるなーとか。」・・・そのような気付きのあるコンテンツをもっともっと、デジタルわかる化研究所さんに発信してもらって、未来の選択肢をたくさん私たちに提示して欲しいと思います。
 いま、家族がいない高齢者は気持ちが不幸なんですよ。みんな沈んでいる。でもこれからは、テクノロジーが家族みたいなもんだよって発信してくださることで、お一人様だったりする方々もハッピーな気持ちでいられるはずです。ぜひとも、この高齢者界隈、テクノロジーと仲良く生きていきましょうね、という発信を続けてほしいなと思っています。

——ありがとうございます。肝に銘じさせていただきます(笑)。深田さんも最後にひと言よろしいですか。

深田)繰り返しになってしまいますが、今日の話を通して思ったのは、調査結果だけで見るとかなりやっぱりブレることが多いなと。そもそもが、神戸さんとの雑談の中から「え? 地方の高齢者とデジタルって、そうなんですか」っていう驚きから始まったことでもありますし。やはり、調査の中身だけ、データだけで判断せずに、ちゃんと現場の方々と話をして、真実を突き詰めないといけないなと思いました。また、その点を僕も肝に銘じてやっていきたいなと思います。

(ZOOMでのリモート鼎談。デジタルわかる化研究所 岸本暢之)

 

<編集後記>

 1時間半に及ぶ鼎談は、鳥取―東京―埼玉を結んでリモートで行われました。とても明るい神戸さんに引っ張られる形で、鼎談は和気あいあいと、あっという間に予定時間となってしまいました。
 神戸さんのお話で、特に地方の高齢者のデジタルデバイド対策は、「誰かが隣にいて、一緒に手を動かして、手取り足取り教えることを繰り返す、そうして『はい、できるようになったね、良かったね』ということを毎日のように繰り返す、それができる環境があればうまくいくと思っています」という言葉がとても印象に残りました。

 私事で恐縮ですが、最近たくさんの方に、各々の周辺のデジタルデバイドについてインタビューをさせていただいて感じるのは、やはりPCやスマートフォンを配布しただけでも、フリーWi-Fi環境のようなインフラを整えただけでも、そしてアプリの使い方を一度教えただけでも、デジタルデバイドの解消には何かが足りないのだ・・・ということです。
 ビジネス開発の世界では良く言われることかもしれませんが、現場のニーズ(心底困っていること)と机上で開発したサービスとの隔たりは、極力少ないに越したことはないということを、改めて感じています。今、最も注目されているデジタル化の現場の一つである、介護・ヘルスケアサービスの供給側の人たちについても、神戸さんは「介護職の私たちはそのような教育を受けて育ってきているわけですから、デジタルに疎い、苦手という結果は当然のことかと思います」とはっきり仰っていました。
 ただ最後に深田さんが発言されていたように、高齢者を含めたデジタルデバイド側の方たちが、自ら進んでデジタルデバイスを使うようになれば、日本全体にハッピーな未来が待っているというのは非常に強く共感します。
 デジタルサービスの供給側と享受する側、その心の底のギャップをさらに深堀りしていきながら、さらに知見を深めて、本当に社会課題の解決となる事業開発に繋げていきたいと、強く思った次第です。

デジタルわかる化研究所 岸本暢之

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