令和に誕生した豊島区総合高齢者対策推進室から始まる取り組み
~日本一の「高齢者にやさしいまち」へ向けて~

2021.08.02 インタビュー

 繁華街の池袋があり、若者のまちとして認識されることが多い東京都豊島区。しかし、一時は消滅可能都市としての危機もあった。オールとしまの「文化によるまちづくり」、「女性にやさしいまちづくり」などでピンチをチャンスに変え、「住みたいまち」として選ばれるまちへ躍進。いまや人口密度日本一の豊島区だが、一方で75歳以上のひとり暮らし高齢者の割合が全国市区で1位という高齢化問題も抱えている。今回は、日本一の「高齢者にやさしいまち」を目指していく豊島区の総合高齢社会対策推進室の皆さんにお話を伺った。

左から)江野澤 舞子様 / 渡邊 圭介様 / 畑 奨様

プロフィール:豊島区 保健福祉部 総合高齢社会対策推進室
 日本一の「高齢者にやさしいまち」を実現できれば、「すべての人にとってやさしいまち」となるという信念のもと、令和元年に誕生。区民と関係団体、民間企業等が一体となった「オールとしま」の力を最大限発揮して、“①社会的孤立ゼロ②100歳健康③一人暮らしでも安心”を対策の3本柱とし、一人でも安心して暮らせるまちの実現を目指している。

デジタルわかる化研究所:
 本日はよろしくお願いいたします。
 池袋は若者が買い物や遊びで訪れるイメージが強い豊島区ですが、調べてみると、実はひとり暮らしの高齢者が多い街だったことはとても意外でした。

総合高齢社会対策推進室:
 この推進室ができた経緯とも絡んでくるのですが、仰る通り、実は豊島区のひとり暮らし高齢者の割合は日本一となっています。ひとり暮らしの高齢者の割合が高いこと自体は、生活利便性が高く一人でも暮らしやすいまちであることを示しているので、決して悪いことではないのですが、課題も出てきています。例えば、ひとり暮らしは「社会的孤立」を生みやすく、社会的孤立は不健康や消費者被害、生活の質の低下などにつながります。

コロナに豊島方式で立ち向かう


デジタルわかる化研究所:
 コロナ禍で、「社会的孤立」はますます深刻になりますよね。その課題解決の取り組みについて、お聞かせください。

総合高齢社会対策推進室:
 豊島区は「オールとしま」の精神から、区民みんなで協力してイベントなどを行うことが多く、高齢者に対しても豊島区全体で見守る体制が染みついています。とはいえコロナ禍では、高齢者は特に生活不活発化となり、結果的に我々も直接住民と話す機会も減ってしまっています。そこはデジタルも積極的に活用して、問題を解決していきたいと思っているところです。

デジタルわかる化研究所:
 外出がしづらく、友人や家族、ご近所の方々と会う機会が減ってしまうと、従来の高齢者を見守る体制の維持は難しそうです。もう1つコロナ禍と言えば、自治体によってはスムーズなワクチン予約の仕組みづくりに苦慮していた中、豊島区独自のワクチン接種様式である「豊島方式」がとても話題になっていましたね。

総合高齢社会対策推進室:
 はい。豊島区では三つの接種方式(集団・巡回・個別)があり、希望に応じて方式を選んで頂けます。また、「予約」において、特に高齢者の方に多いのが「インターネットでの予約方法がわからない」ことや「予約したけど忘れてしまった」「キャンセルの仕方が分からない」という人々です。そういった方々には、「コミュニティソーシャルワーカー(以下CSW)」と呼ばれる職員がお手伝いしています。予約の手続きを一緒にしたり、代理手続きを行うことで不安を解消しているため、大きなトラブルは今のところありません。ただ、今後ワクチン接種の対象者が拡大していく中で、何がベストかは検討し続けなければならないと思います。


デジタルわかる化研究所:
 「CSW」とてもよい制度ですね。昔からある制度なのでしょうか?

総合高齢社会対策推進室:
 平成24年度から本格的に実施しております。地域住民から寄せられた相談などをきっかけに、個別に必要な支援窓口に繋げたり、地域のネットワークづくりなどに専門的に取り組む職種となります。我々のような総合的な業務を行う区の職員は入れ替わりが激しく、近所の人たちと顔見知りになることが難しいのですが、CSWが長い期間で困りごとの相談など対応してくれることで円滑な支援体制ができているのです。このような取り組みは西日本の大阪府豊中市が発祥ですが、東日本だと豊島区が一番大きい規模となっています。

デジタルわかる化研究所:
 普段から「まちのお助け」としてCSWの存在が高齢者に認知されていることで、コロナ禍においてもCSWが存在する安心感がトラブルを起こさない要因にもなっているのだと感じます。「コロナだから」ではない日々の継続的な取り組みは、培ってきた財産としてとても大切なものですね。しかし、コロナ過によってなかなか会いに行くことができず、対面でのコミュニケーションが難しい今、CSWの在り方にも課題がでてきていると思いますが、どのようにお考えでしょうか?

総合高齢社会対策推進室:
 元々、CSWは地域を回っているため、一家庭を継続的に追うことはできておらず、対面においても正直つかみ切れていない部分もあります。また、通常8か所の「地域区民ひろば」にいるのですが、そこがコロナで閉まっていると本部に引き上げざるを得ず、ある一定期間は休止状態となっていました。手段としては電話か訪問が主で、デジタル活用があまりできてなかったと思います。現在は、CSWの活動は再開されておりワクチン予約で活躍してもらっていますが、デジタル活用の課題には向き合っていかねばならないと感じます。

デジタルわかる化研究所:
 CSWのデジタル対応はこれからということですね。改めてデジタルの重要性が高まっている中、ここからは豊島区総合高齢社会対策推進室の皆さんが関わっていた「ポケットヘルスケア」についてお聞きしていきたいと思います。取り組みの背景からお聞きしてもよろしいでしょうか?

健康習慣作りは「スマホへの恐怖心」もなくす?
ポケットヘルスケア事業の取り組みと実態

https://toshima.lg.healthcare.auone.jp/ より)

総合高齢社会対策推進室:
 今回、東京都の「次世代ウェルネスソリューション構築事業」のモデルプロジェクトとして、東京都・豊島区・KDDIの三社事業を行いました。豊島区はこれまでも国家戦略特区(※1)のしくみを利用して戦略的介護モデル事業をはじめ、各分野で東京都と連携をしてきたという経緯があります。高齢社会対策についても東京都とタッグを組んで先進的な取り組みを進めていこうという中で、KDDIさんからスマートフォンを使った事業をご提案いただきました。我々としても、推し進めているこれからの高齢社会対策に大いに寄与するものであると考え、一緒に実証実験を進めていきたいということで始まった施策になります。

※1:“世界で一番ビジネスをしやすい環境”を作ることを目的に、地域や分野を限定することで、大胆な規制・制度の緩和や税制面の優遇を行う規制改革制度のこと

デジタルわかる化研究所:
 すでに実証実験は終了し、10月からまた新たな動きを見せていくとお聞きしています。主に高齢者へ向けたサービスだと思いますが、実際はどのような人が利用されていたのでしょうか?機能やサービス内容についても詳しく教えてください。

総合高齢社会対策推進室:
 全体利用者数としては4,000人弱、一番多い利用者は50代で、次に30代、40代、60代と続いています。70代にも利用者はおり、それなりに高齢者にも利用していただけたのではないかと感じています。内容についてですが、iPhoneであれば、「ヘルスケア」androidであれば「Googleヘルスケア」アプリと連動して、実際の歩数をカウントし、その歩数に応じて、もしくは日々の体重や血圧を記録することでインセンティブが付与されます。アプリ内ランキングを作るなど、能動的に参加したくなる仕組みを作っています。

デジタルわかる化研究所:
 ランキングの仕組みは強い動機になりますよね。実際、取り組みを通して得られた示唆や実感などはありますか?

総合高齢社会対策推進室:
 継続利用意向の声はかなり多く、9割くらいの方に使い続けたいと仰っていただきました。インセンティブ自体の魅力や、純粋に体重や運動の記録機能の良さもあったようです。このアプリで蓄積された歩数などのデータは、KDDIが保有し、分析をしました。またデータから、豊島区利用者の一日の平均歩数が全国平均と比べても多い、ということが分かりしました。やはり、ランキングやポイントのようなゲーム的要素があることで行動につながり、健康意識が高まったのかなと思います。

デジタルわかる化研究所:
 現在検討しているデータの活用方法などはあるのでしょうか?

総合高齢社会対策推進室:
 まだデータの共有・活用の具体的な話まではいけていないことが正直なところです。といいますのも、今回蓄積されたデータ、いわゆるパーソナルヘルスケアレポート(PHR)については、実証事業のため個人情報と結び付けておりません。そこが結び付ければ、個人情報や属性を共有して、区からのお知らせメールを送る際に、その属性に応じて「動きましょう」「体重が増えているので食事制限しましょう」「禁煙しましょう」などのメッセージを送るなどの活用ができるのではないかと構想はしております。

デジタルわかる化研究所:
 個人情報と結び付けることが出来れば、今後、地域の高齢者の健康を気にするCSWや、フレイルなどの事業とPHRデータの連携・活用ができそうですね。

総合高齢社会対策推進室:
 そうですね。次回実証実験のデータが蓄積された際、活用についての議論も活発にしていけたらと思っております。この件に関しては、貴重なデータのより良い活用に向けて、我々の部門だけではなく健康づくりを担当している部門なども一体となって取り組んでいくべきだと感じています。部門を超えて議論していく骨組みの組み立てが大変だとは思いますが、この部門からリードして、きちんと向き合っていきたいですね。KDDI側からも、新しいご提案などデータ活用の構想はあると思うので、これから色々と検討していきたいと思っています。

デジタルわかる化研究所:
 ただ取り組むだけでなく、データ活用もとても重要ですね。ちなみに、ポケットヘルスケア事業は数年にわたり行われる事業なのでしょうか?

総合高齢社会対策推進室:
 基本、この事業は一年単位で都から予算がでるということになっており、来年も一年間の実証事業をやるということになっています。今はアプリとしては使える状態ですが、事業としては稼働していないためインセンティブなどは付与しておらず、歩数確認と情報入力のみ可能な状態です。

デジタルわかる化研究所:
 インセンティブがない期間にどれだけ歩数に変動があるのか興味がわきますね(笑)

総合高齢社会対策推進室:
 インセンティブがないことで実際に歩数が減る人もいらっしゃるかと思います(笑)ですが、健康意識の高い高齢者の方にとっては、記録機能としての価値も高いのではないのかなと、個人的にも感じますね。

デジタルわかる化研究所:
 記録を促すことで、日常の「習慣化」につながる取り組みを豊島区からできているのですね。

総合高齢社会対策推進室:
 また、高齢者の中には、まだガラケーの方もいらっしゃるなかで、簡単な操作で使用できるポケットヘルスケアによって「スマホへの恐怖心」を減らしている役割もあるのではないかと思います。区から提供している安心感もあるため、ポケットヘルスケアがスマホを触るきっかけの一つとして機能しており、漠然と「スマホ教室」にいくことに抵抗感がある方にはとてもいいのではないでしょうか。

デジタルわかる化研究所:
 我々研究所も、デバイド解消にむけて色々と取り組みを進めている中で、「デジタルへの恐怖心」はまさにどうアプローチをすればよいのか悩んでいる点でした。自分にとってのメリットがわかりにくいスマホ教室よりも、今回のようなポケットヘルスケアにおける「区からの提供」という安心感に加えて、誰もがメリットを感じる「健康」という強い入り口がスマホへのハードルを下げるきっかけになることは、とてもよい気づきとなりました。

総合高齢社会対策推進室:
 ありがとうございます。それは高齢者に限った話ではなく、子供にとっても何かを始める際は自分の興味があるカテゴリから入ると感じます。「名前の入力からしましょう」ではなく、もっと楽しく・身になる取り組ませ方を考える事が大切だと思います。

デジタルわかる化研究所:
 テーマ性を持って広げていくことが大事ですね。
 最後に、豊島区として、今後どうデジタル活用に向き合っていくのか教えていただけますでしょうか。

豊島区とデジタル活用

総合高齢社会対策推進室
 行政がデジタル活用に向き合うにあたり、2つ課題があると考えています。
1つ目が供給側である行政自体のデジタル化が進んでいないということです。デジタル活用の重要性は理解しながらもできていない自治体が多く、豊島区としてもその課題を乗り越えるべく、今年から民間企業のデジタルに精通した方をデジタル推進員として迎えました。まずは区役所内の体制を整え、来年度以降区民に向けて発信していこうとしています。
 デジタル化によって特に可能性が広がるのが福祉部門だと思います。そのために、このあたりについてはしっかりと情報を把握しようと思っています。

 2つ目にデジタル化における指導員などの人員不足です。これは「学生の活用」が解決策の1つとしてあると考えています。豊島区には数多くの大学があり、「オールとしま」で大学とも組んでイベントを行うこともあります。大学生自体も地域に溶け込んでおり、学生さんに協力いただく機会も多いため、それを福祉まで広げていくことでこの課題を解決できるはずです。
 もちろん、このような「行政から区民へ」という考えは自治体によるところもあり、一緒に学んでいこうというところもあれば、区民からデジタル化を推進してしまおうという自治体もあります。豊島区は行政から区民へという順番で、まさに今取り掛かろうとしているところです。


デジタルわかる化研究所:
 最近は社会課題に関心がある若者も多いため、そのうちの1割でも福祉に興味をもって、ボランティアという形でも参加してもらえたら、更に良いまちになっていく気がします。一人暮らしの高齢者が家族以外の人と触れ合う機会を増やしていく大切さも感じますね。


総合高齢社会対策推進室:
 そうですね。よりまちが一体となっていけるよう、様々な施策を模索していきたいと思います。

デジタルわかる化研究所:
 区としての取り組みにとどまらず、まち全体で日本一の「高齢者にやさしいまち」を目指していく豊島区の試みは、とても勉強になりました。本日はお忙しい中誠にありがとうございました!

(写真:庁舎内屋上庭園にて。豊島区:渡邊様/畑様/江野澤様 デジタルわかる化研究所:松浦/渡辺/古谷)

2021年デジタルの日