プラチナマップ『日本の観光産業にデジタル化を』 日本初のデジタルマッププラットフォーム

2024.08.26 行列・混雑解消

デジタルわかる化研究所では、2024年度『混雑や行列の緩和』を研究テーマとして活動している。行列/混雑は様々なシーンで生まれており、その原因や解決方法は多岐にわたるため、研究所は『行列/混雑解消サービス』を提供している様々な企業にインタビューを行い、行列/混雑解消に向けたヒントを探っている。今回は日本で初めてデジタルマッププラットフォームを開発し、観光DXをはじめ、商業施設DX、レジャー施設DXを推進するボールドライト株式会社からお話を伺えることになった。数多くの観光地や商業施設のオリジナルデジタルマップを手掛ける、代表取締役 宮本 章弘様にインタビューをさせていただいた。

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▼ボールドライト様 会社プロフィール
2019年4月3日設立。デジタルテクノロジーを通じて、リアル空間とサイバー空間のボーダレス化を目指すDXベンチャーカンパニー。
デジタルマッププラットフォーム『プラチナマップ』で観光DXを推進。DXプラットフォームの社会実装を通じ、より暮らしやすいDX社会への貢献を目指す。

▼公式HP
https://boldright.co.jp/
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プラチナマップについて教えてください
 『プラチナマップ』は2019年、創業と同時に作ったサービスです。
観光産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を目的としたサービスで、観光地や自治体、商業施設などのオリジナルマップの作成が可能な、デジタルマッププラットフォームです。

▼プラチナマップ
https://platinumaps.jp

Google Mapとは異なり、1つのエリアにフォーカスした”クローズド”なデジタルマップです。観光やグルメ、ショッピングスポットを一目でわかる画像ピンで表示し、更に混雑状態や待ち時間をリアルタイムで反映するなど、マップ利用者にとって便利な機能が統合的に備わっているのが特徴です。

Googleマップは行きたい場所が明確な時には便利ですが、地図から魅力的な観光スポットや飲食店を見つけ出すのは難しいですよね。それに対してプラチナマップはエリアを限定し、様々な機能でスポットの魅力をわかりやすく伝えられることが特徴だとわかりました。このサービスの立ち上がり背景も教えていただけますでしょうか? 
 サービス立ち上げのきっかけは、過去にニューヨークでAI関連の仕事をしていた時に遡るのですが、当時日本のIT技術の遅れをかなり感じていました。今日本人が使っているソフトウェアのほとんどはアメリカ製で、同じようなソフトウェアを日本人が作れるかというと非常に難しいなと。

そんな状況を肌で感じた中で、今後どういう産業が日本で伸びていくのか考えた時に、日本は観光立国であり、観光産業は今後も伸長しチャンスがあるのではないかと考えました。自身が取り組んでいたIT・AI分野と観光を掛け合わせて『観光DX』をテーマとした事業を作りたいと思い、観光の文脈において必ず利用される”地図”に着目しました。

当時、プラチナマップのような地図プラットフォームは存在しておらず、デジタルマップといえばGoogle Mapのみでした。そのため、自治体や企業がオリジナルのマップを作る場合は、Google Mapをベースとした地図をウェブサイトに公開するケースが多かったのです。

正直使い勝手がよくないものが多かったので、なんとかUI/UXの優れたマップで、かつ管理画面を通して簡単にデータの取得や更新ができるプラットフォームの必要性を感じ、開発したのがプラチナマップです。

プラチナマップはどういった顧客からのニーズが多いのでしょうか? 
 現在まで、約900社に導入いただいていますが、圧倒的に自治体の需要が多いです。多くの自治体が紙でオリジナル地図を制作しているため、そこをデジタルマップに置き換えませんか?とご提案しています。港区へのマップ提供から始まり、そこから徐々に実績が増え、現在では様々な自治体がご活用くださるようになりました。

また、2023年6月には商業施設向けデジタルフロアマップ『プラチナモール』、および、レジャー施設向けデジタルパークマップ『プラチナパーク』のリブランドをおこないました。現在までに、麻布台ヒルズ/イオンモール/ホテルニューオータニ東京/東京ジョイポリス/東京サマーランドなどのお客様施設にご導入をいただき、その他多くの商業施設・レジャー施設からも問い合わせをいただいています。

自治体や商業施設はどのような課題を抱えてサービス導入に至ることが多いですか?
 課題は様々ですが、リソースの問題がよくあがります。観光客や来訪客が道に迷うことが増えれば必然的に問い合わせが多くなり、スタッフの対応が必要になります。その解決策としてデジタルマップを導入することで迷う人が少なくなり、問い合わせ対応の軽減=リソースの確保に繋がります。

また、紙の削減を目的とした導入も多いです。大きな自治体や大手商業施設になると、オリジナルマップの印刷費用だけで年間数千万円かかる場合もあるので、印刷費用を大きく削減できることにメリットを感じていただいています。コスト面だけでなく、SDGsの観点で紙の消費量を減らしたいというニーズも増えていると感じています。

プラチナマップの導入効果に関して教えてください。
 一例ですが、観光バスサービスのスカイホップバス様にプラチナマップをご活用いただくなかで、マップ導入後、バス利用者の大半を占める訪日外国人観光客の観光体験の質が高まり、利用者の満足度向上、利用者の増加に繋がっているとのお話を伺っています。

具体的には、バス停の位置とルートをマップに表示し、ルート上の観光スポットもわかるようにされました。それにより、乗るバスによってどのような観光体験ができるのかを利用者がイメージしやすくなったり、バスの位置情報と混雑状況をリアルタイムに把握できるようになったことで、時刻表通りにバスが来なかった場合でも、利用者が待ち時間を有効に使えるようになったそうです。プラチナマップ導入先のビジネスでも様々なメリットをご提供できたと実感しています。

(参考)観光バス利用者が1.4倍に!デジタルマップをフル活用して、インバウンド対策と沿線エリアの観光周遊を促進
https://platinumaps.jp/article/20240622/

いずれ日本全国でプラチナマップが利用されるかもしれませんね。導入したエリア同士の連携はしないのですか? 
 今後も導入いただける自治体・企業は増えていくと思います。ただ、我々はクローズドマップであることに価値があると考えていますので、1つ1つのマップを繋げることはしません。地域限定のクーポンを配布したり、そのエリアを走るバスなど乗り物の位置情報を表示させたり、スポットの混雑状況を表示するなど、プラチナマップの様々な機能を通して『地域独自の経済圏を可視化すること』が大事だと考えています。

実際にマップを利用するユーザーについて、どんな人でどんな接点でプラチナマップに出会うのか教えてください。 
 日本人観光客にご利用いただくことが多いのですが、多言語対応可能なマップですので訪日外国人観光客にも使っていただいています。デジタルマップを観光客に周知するための施策については、当社ではなく導入いただいた自治体・企業が行います。

例えば先ほどのスカイホップバス様のケースでは、デジタルマップ上に観光スポットや飲食店などの情報を豊富に掲載したうえで、マップにアクセスできるQRコード付きのパンフレットや紹介カードをご用意し、観光案内所やホテルなどで周知・配布されていました。

その他の自治体・企業でも、ウェブサイトやSNSでの告知、サイネージやポスターでのPRなど、様々な方法でデジタルマップへの接点構築を施されています。

導入した自治体・企業だけでなく、マップで紹介するスポット・事業者などそのエリア全体で協力し合うことで、プラチナマップを軸に地域の経済が活性化している感じがしますね。
プラチナマップを実際に触ってみると非常にわかりやすく使いやすい印象を受けたのですが、UI/UXの観点で意識されていることはありますか?
 観光客や施設来訪者に使っていただくものなので、UI/UX命だと考えています。スマホでの利用を想定しているため、ボタン1つ1つも押しやすいように大きくしていますし、ウェブ上で操作するサービスですが、アプリのようにレスポンスよく動作することを意識しています。

実際にマップを利用しているユーザーの声を聞くと、『使いやすい』『見やすい』といったお言葉を数多くいただきますし、長く利用してくださっているユーザーの中には『去年とは違う機能がついていて便利!』とサービスの進化に気づいてくださる方もいました。

プラチナマップのUI/UXを考えるときに、デジタルサービスに慣れていない人やデジタルリテラシーが低い人のことを意識はしますか? 
 デジタルサービスを作り運営するにあたって、最も考えなければならないのは『より多くの人に使いやすいサービスをつくること』だと考えています。

例えば、スマホを使い慣れていない方を想定したUI/UXの変更、機能の追加をすることもできますが、特定の層を意識しすぎた変更を行ってしまうと、その変更が『その他大勢のユーザーにとって使いづらく感じてしまう』なんてこともあるんです。

とはいえ、極力万人にとって直感的に使いやすい、シンプルなサービスを目指してはいますし、マップというサービス自体、そんなに複雑なものではないので、これまでサービスを導入いただいた自治体・企業から使い勝手に関して強い改善要望やクレームがきたことはありません。

プラチナマップの強みや利用のされ方がよくわかってきました。
少し話は変わってしまいますが、当研究所は現在『混雑や行列の緩和』を研究テーマとして活動しております。プラチナマップの機能の1つである、混雑状況の可視化について具体的に教えていただけますでしょうか?
 混雑状況のデータは『❶専用アプリ経由で混雑状況を手動入力する』、もしくは『❷AIカメラで判別する』2パターンの取得方法があります。データの取り方は他にもGPS位置情報を捕捉するなどいくつかありますが、大事なことは『データの正確性』です。せっかくマップ上で混雑状況が可視化されていても、実際の状況が異なっていたらユーザーも困ってしまいますし、クレームに繋がりますから。

正確性のない混雑情報に価値はないので、面倒かもしれませんが、スタッフの方に手打ち入力してもらうか、追加コストはかかりますが精度の高いAIカメラの導入をご提案しています。まずはコストのかからない専用アプリへの手動入力を試していただき、価値があると感じていただけたらAIカメラの導入を検討していただくのも良いかと思います。

“精度の低い混雑情報ほど意味がないものはない”というのはおっしゃる通りですね。
プラチナマップをはじめとするデジタルサービスで混雑や行列の緩和は実現可能なものなのでしょうか?お考えを聞かせてください。


 今オーバーツーリズムが社会問題になっていますが、観光地の混雑は完全に解消することはできないと考えています。例えば、日本の富士山、フランスのモンサンミッシェルなど、観光客が必ず1度は訪れたいと思うランドマークに関しては、規制やシステムの力で拒んだとしても観光したい欲望は減らないですし、止められないですよね。

拒むのではなく、いかに受け入れられる体制を作るかが重要だと思うのですが、どういうわけか日本ではシステムを導入することで混雑が緩和されると思っている人が多いのです。混雑を可視化できたからといって行きたい人は行くし、食べたい飲食店があれば行列に並びます。

一方で、商業施設やテーマパークなどであれば、施設内全体のスポットの混雑状況を可視化することで、来訪者は訪問・体験する順番を組み替えて効率良くまわることができるので、混雑緩和とまで言えるかわからないですが、『経路の最適化』と『施設内人流の分散』はできると考えています。

観光における混雑や行列の緩和実現性に関して、とても興味深い意見で勉強になりました。ありがとうございます。最後に、プラチナマップの今後の展望について教えていただけますか?  
 いま以上にプラチナマップが便利になる機能を開発・実装していきたいと考えています。特に生成AIには力を入れており、例えば登録する観光スポットやお店の概要文を自動生成で瞬時に作文ができるようになります。また、スタンプラリー企画でのスタンプ獲得条件を特定のスポットで写真撮影と設定した場合、その写真が本当に指定のスポットで撮影されたのかどうかを生成AIで自動チェックすることも実現可能です。

他にも、登録されている観光スポットの中から、ユーザーに合った観光スポットを提案することもできるようにしたり、家族へのギフトを購入したいと思えば、登録されている店舗からギフト購入に最適な店舗をレコメンドし、経路案内したりすることも実現可能です。

これらの新しい機能は近い将来プラチナマップに実装できる予定です。日本発のソフトウェアが海外で普及することは非常に難易度が高いのですが、いずれ我々のサービスを海外に展開していければと考えております。

今回は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
当研究所としても、デジタルの力を活用した行列・混雑の解消を研究する上で、観光市場にも目を向けて研究活動を進めていきたいと思います。

取材 デジタルわかる化研究所 安藤亮司 / 豊田哲也
ライター 豊田哲也 取材実施日2023年7月1日
【ライタープロフィール】


〇安藤亮司(左):1996年にオリコム中途入社。20年以上営業部門に所属し2019年に取締役に就任。その後、メディア部門・財務部門を経験し2023年からオリコミサービスの常務に。当研究所立ち上げメンバー。趣味は料理とサッカー指導。
〇豊田哲也(右):2014年にオリコムに入社。6年間デジタルマーケティング支援業務に携わり、その後オンライン・オフライン統合したメディアプランニング業務に従事。当研究所立ち上げメンバー。趣味は釣りと映画鑑賞。

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