イデア・レコード 飲食業界をデジタルで支援する
取材実施日2024年7月8日
人気の居酒屋やラーメン店、週末の回転寿司屋。多くの方が行列しているお店をいたるところで見かけます。何も調べずにお店に行くと、「2時間待ち」。仕方なく、他のお店に入ろうと諦める経験をしたことがある方も多いはずです。そんな行列や混雑を解消するヒントを探る第二弾として、「外食DX」を推進するイデア・レコードの取締役、左川裕規様にお話を伺いました。
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▼イデア・レコード様 会社プロフィール
「店舗ビジネスの成長ドライバーに」のミッションのもと、外食のDX化によって飲食店オーナーが本業に専念できる環境を作るため、飲食特化のBPaaS企業として飲食店特化型のコールセンター、オールインワンツールGATEシリーズ、媒体編集、オウンドメディア構築・運用やMEO、SEOなどマルチメディアサービス「スゴクいいマーケティング」など、「人×テクノロジー」によるBPaaSを提供しています。 ビジネスモデルやプロセスの環変化がめまぐるしい外食産業を支えるべく、一気通貫でトータルサポートいたします。
▼公式HP
https://idearecord.co.jp/
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デジタルの恩恵を受けづらい”外食業界”
▼デジタルわかる化研究所:飲食店の予約サービスをご展開されているとのことですが、サービスの立ち上げについて教えてください。
▼左川様:もともと当社の代表は金融系を中心にコンサルやシステム開発等の仕事をしていました。金融業界はITにとてもお金をかけていて、何億・何十億投資する案件が多かったようです。ですが飲食業界はITの恩恵を受けづらく、そもそも予算もあまりありません。特に外食産業は倒産率や閉店率が高く、そういう方々にこそデジタルの恩恵が必要ではと考えました。夢を持って飲食店を立ち上げた方を応援するには、本業である接客や調理以外の部分をすべて巻き取ることが必要だと思ったんです。
飲食店の困りごとの一つが電話対応なんですね。電話を取るまでどんな内容かわからないですから。そこで、最初はコールセンターを立ち上げて、そこから中心に様々なサービスを提供するようになりました。
▼デジタルわかる化研究所:コールセンターから現在にまで発展させていったのはどんな経緯があったのでしょうか。
▼左川様:飲食店はグルメ媒体からの集客に頼らざるをえないことが多いのですが、そのノウハウも必ずしも持っているわけではありません。また集客に成功すると必然的に電話がなることも増えるのですが、忙しいと電話に出る余裕がなくなってきます。そうすると売上がなかなか伸びない。そのためコールセンターと集客をセットでやるようになりました。そして我々のコールセンターで取った予約を飲食店さんと共有するための台帳が必要となり、自社開発しました。そこからより使いやすいように改良を重ね、機能が充実していき、これをSaaSとして単体で売り出そうということになったんです。
サービス提供後も現場に赴いて、要望をくみ取っていく
▼デジタルわかる化研究所;具体的にどんなサービスを展開しているのですか?
▼左川様:本来飲食店様が力を注ぐべき「食」や「接客」に集中できる環境づくりを支援することをベースにしています。本業に専念できるように、それ以外の予約やオーダー、販促・SNS等はまるごと全部やっています。特に予約の部分は、どの飲食店様も複数の媒体(グルメサイト等)に予約在庫を登録しています。そうすると、例えば“グルメ媒体A”から1つ予約が入ったら、“媒体B”“媒体C”の予約枠は1つずつ減らす。この操作を飲食店側が手動で行わなければいけないのが、煩雑なんです。これを自動的に操作する「サイトコントローラ」という機能をつけて、一元管理できるようにしています。コロナをきっかけにデリバリー一元管理システムが多くのお店で定着してきていますが、その管理もできるようになっています。
また、最近非常に増えているのは店内のモバイルオーダーです。メニューブックを置かずに、QRコードから自身の端末で注文してもらうものです。やはりどこも人手不足なので積極的に導入するケースが多いんですよね。しかもインバウンドも増えているので、多言語化に対応していてお客さんが言語を選択して注文できます。このように様々なサービスを持っているので、飲食店様には必要なものチョイスして使ってもらっています。
▼デジタルわかる化研究所:「予約台帳管理」「顧客管理」「注文一元管理」「モバイルオーダー」等と、いろいろなサービスがあるんですね。従業員の方々はやはり飲食業の経験があるのでしょうか。
▼左川様:創業メンバーには、もともと飲食チェーン店のマネジメントをやっていた者もいます。店舗のオペレーションや費用の考え方、トラブルなど飲食店が考慮しないといけないポイントがわかっているんですよね。あとは飲食店の店長をやっていたり、飲食店のアルバイト経験があったり、飲食店で働いたことがある人も少なくないですし、あとは飲食が好きという方は多いです。
カスタマーサクセスにも力を入れており、ツールを導入して終わりではなく飲食店様がそのツールを使いこなせるまでサポートすることも重要と考えています。使い方の説明会をしたり、全国チェーンのお店では各地の店長会議に行って直接説明したりしました。店舗数が増えれば増えるほどリテラシーや気にすることが異なる様々な人がいるので、実際に説明しないといけないんです。また複数ブランドを持っているチェーンでは予約の数やターゲット・集客媒体にも微妙に違いがあります。それぞれがどういう形で台帳を使えばいいのかを一緒に考えています。
▼デジタルわかる化研究所:各地の店長会議ですか!リアルで説明するんですよね。大変そうですね。
▼左川様:最近はオンラインでの開催も増えてきているとはいいつつ、そういった運用は正直大変なのですが、信頼を獲得するためには必要なんです。なるべく現場に出向いて、要望を受けたものを一つ一つ切り分けながら積極的に導入したり、必要に応じてカスタマイズをしたり、お客様が使いやすいように意識しています。実際店舗に行ってみると「そんな使い方するんだ」「そこで間違いが起きるんだ」と我々でも気が付かない発見があるので、現場に赴くことはとても大切です。
アナログ×デジタルで、デジタル初心者にも使いやすく
▼デジタルわかる化研究所:サービスのUIやUXで意識されていることはありますか?
▼左川様:外食業界で働く方々は他の業界と比べると、ITリテラシーの有無が二極化していると感じます。今までアナログな紙でやってきたのに、急にデジタルに変えるのは難しいので、我々のツールは紙との連携もできるようにしています。例えば、予約が入ったら通常はデジタルの予約台帳に通知が入りますが、同時にファックスも送るという機能もあります。忙しくてバタバタしている状況で、わざわざパソコンやタブレットの画面を見てもらうのは難しいんですよね。ファックスで物理的に紙が来ると、気づきやすくなります。混雑時は現場がバタバタしているので、そのような中でも間違いなく運用してもらうためにはどうしたらいいのかを常に考えているのです。
▼デジタルわかる化研究所:紙との連携ができると、サービスを使うハードルが下がりますね。
▼左川様:それだけではなく、コース料理をどこまで運んだのかが管理できたり、予約されているコースの管理もできたりするようになっています。週単位でいつどのコースが何名分予約されていて、どの食材を仕入れなければいけないか等が表示できるんです。
▼デジタルわかる化研究所;座席管理だけではなくて、料理のことまでも管理できるのはとても便利ですね。サービスの使いやすさにおいて意識していることはありますか。
▼左川様:飲食店の方全員が思うように画面を操作できるわけではないんですよね。機能を分かりやすくしたりマニュアルを作成したりもしますが、まずは「ここさえ見ればいい!」というように絞りこんで提供することも大事だなと思います。まずは日々の運用で必要な最低限なものを覚えていただいて、便利さを感じてもらうことで徐々に使っていただけるようになることもあります。いきなり一から十まで覚えるのは難しいんですよね。
行列をなくすのではなく、効率的に変えていく
▼デジタルわかる化研究所:行列を解消するために、貴社のサービスは飲食店様にどのように活用されているのでしょうか。
▼左川様:そもそも行列自体は決してなくならないと思います。例えば順番待ちシステムを入れたとしても、待機する場所がどこなのかというだけなんですよね。店頭で並んでいないだけで、待っている人はいるので。最近だと優先利用制度を導入しているお店も多いんですが、なかなか難しいのです。
▼デジタルわかる化研究所:どんなところが難しいのでしょうか。
▼左川様:特にチェーン店では、長い時間並んで待っている中で、優先利用制度を使って後から来た人がすっと入っていくと、クレームにつながりやすくなるんです。「先に並んでいたのに抜かされた!」というようなクレームが発生することをお店側はすごく気にしていて、挑戦しづらいとのお声をいただきます。
▼デジタルわかる化研究所:超人気店や高級店など「お金を払ってもいいから食べたい!」というお店ではない限り、優先利用のシステムを導入するのは現実的ではないのですね。
▼左川様:だからこそ、行列をなくすのではなく効率化することを目指しています。
当日並んでもらうのと事前決済型の予約を分けて行う、テイクアウトと店内飲食は列を分ける、などですね。並ばなくていいはずの人が列を作ることで、余計に行列を長くしてしまうのです。どうしても行列しなければいけない人と、そうではない人をちゃんと振り分けることが、効率化につながると思います。
逆に行列が好きな人もいますよね。30分待って食べるラーメンのほうがおいしいとか、Appleの新製品を並んで買ったほうが嬉しいとか。その並ぶこと自体がイベントになるものは、楽しい行列なんです。
▼デジタルわかる化研究所:今後の展望があれば教えてください。
▼左川様:飲食業界のインフラになりたいと思っています。「とりあえずGATEのサービスを導入すればOKだよね」という風なプラットフォームを目指したいですね。今までサービスを提供していく中でいろいろなデータが集まっているので、それを使ったり、AIを活用してお店側に効率よく売り上げを作っていただきたいなと。今は外食DXをかかげていますが、飲食店以外にも店舗型のビジネスは多く存在します。今後はその業界も視野に入れつつ、まずは飲食業界のシェアを伸ばしていきたいと思います。
取材後記
行列をなくすことはできなくとも、並ぶべき人/並ばなくていい人を振り分けるというお話が印象的だった。サービスの機能が充実しているからこそ、飲食店の店舗ごとに異なるルールに対応できる柔軟さがあり、外食DXを推進できる理由なんだと感じた。すべてをデジタルに転換すること自体は技術的には簡単なのかもしれないが。すべての人の使いやすさを考えての工夫こそ、デジタルデバイドをなくしていく一歩になると実感した。
取材・撮影
デジタルわかる化研究所 安藤亮司・飯野由季
〇安藤亮司
1996年にオリコム中途入社。20年以上営業部門に所属し2019年に取締役に就任。その後、メディア部門・財務部門を経験し2023年からオリコミサービスの常務に。当研究所立ち上げメンバー。趣味は料理とサッカー指導。
〇飯野由季
2022年オリコム入社。データソリューション開発部を経て現在はストラテジックプランナー。2023年に当研究所へ参画。