【デジわかオリジナル1000人調査!】 『行列』、アプリで解消できるのに、なぜ?
コロナが第五類に移行されてはや一年が経過、街中には賑わいが戻ってきました。行動規制のない日常に、訪日外国人旅行者の増加もあり、繁華街の飲食店には“行列”が目立ちます。旅行需要の回復もあり、駅のチケット売場や旅行会社にも混雑が目立つようになってきました。
ここ数年、スマートフォンの発達に伴って、様々な行列や混雑を回避できるアプリが生まれています。デジタル技術の活用で、これまでとは比べものにならないくらい便利な生活が送れるようになっています。ただこれらの便利なサービスも、活用している人と活用していない人とが分かれており、ここにもデジタルの格差が生まれています。筆者(50代)は下記のサービスすべてを利用していますが、周囲には利用していない人が結構存在しています。誰もが行列に並ぶのは苦痛で、これらのサービスを活用すれば行列を回避できる。それなのになぜ使わないのだろうか、、、いつも不思議に思っています。
そこで、「デジわか」では、これらの行列回避サービス(アプリ)の活用状況を調査し、活用していない人の考え方を深掘りしてみました。
今回の調査対象は下記の3サービスです。
1)JR東海の「スマートEX」やJR東日本の「駅ねっと」といった新幹線や特急列車などの乗車券をスマートフォンで予約できるサービス(以下「乗車券予約」)
2)マクドナルドなどに代表されるファーストフードのモバイルオーダーサービス(以下「モバイルオーダー」)
3)銀行が運営する振込や振替、残高照会などがスマートフォン上で可能なネットバンキングサービス(以下「ネットバンキング」)
これらの活用実態を、全国の10代から70代の方々1000名に調査を行いました。
[調査概要]
・調査時期:2024年3月
・調査手法:インターネット調査
・調査サンプル:n=1,000(10代~70代以上、各年代140n/男女均等)
◆調査結果① 利用率
「ネットバンキング」が43.7%で最も高く、次いで「モバイルオーダー」 27.7%、「乗車券予約」 22.9%といった結果でした。年代別にみると、「乗車券予約」は20・30代の利用率が高く、「モバイルオーダー」は20代が最も高く、10代~40代まで高い傾向にあります。「ネットバンキング」は30代と50代が最も高く、20代~60代まで幅広い世代で高い傾向にありました。(※オレンジの網掛けは全世代平均よりも高い数値)
全体を通して、そのサービス自体の利用率と比例傾向にあることが窺がえます。「乗車券予約」に関しては出張などビジネスユースが高い世代が高く、「モバイルオーダー」はファーストフード利用率の高い若年層が高く、「ネットバンキング」については、銀行という誰もが活用するサービスのため、幅広い年代が活用していることが分かります。
◆調査結果② 重複活用
次に3種類のサービスの重複活用状況を確認しました。
【全世代の重複利用】
「すべて利用している人」は全体の10.0%、「いずれも利用していない」人は42.9%でした。言い換えると半数以上の方が、最低一つのサービスは利用していることが分かります。
世代別の重複利用は下記の通りです。二種類のサービスを利用している人は、「モバイルオーダー」と「ネットバンキング」の組み合わせが最も高くなっております。「すべて利用している」は10~20代が15.0%と最も高く、「一つは利用している」は30~40代が62.9%と最も高くなっています。50代以上では「いずれも利用していない」人が66.8%と高くなっております。
個別のサービスの重複は下記の通りです。
◆調査結果③ 利用しない理由
次に利用していない理由の結果です。これについては、すべてのサービスで、“利用する機会が少ないから”が最も高くなりました。そもそも該当サービスを利用する機会が少ない人が、わざわざアプリをダウンロードしてまで利用はしない、これは当然の結果だと思います。ただし、二位以下の理由には個々のサービスの特徴が表れています。
上記の表の通り、「乗車券予約」は“サービスの存在を知らない” “自分にとって便利なのか分からない”といった理由が上位にきています。「モバイルオーダー」は“店頭での購入や手続きが苦ではない” “ダウンロードや登録が手間”が上位に、「ネットバンキング」は、“情報流出が心配” “自分にとって便利なのか分からない”が上位にあがりました。
◆利用しない理由の考察
利用しない理由を、サービス別の順位ではなく、理由ごとに比較したのが下記の表です。
この表から、各々のサービスを利用しない理由の違いが見えてきます。あくまで傾向ですが、利用に影響を与えている理由は以下の5項目と言えそうです。
“サービスの存在を知らないから” “利用する機会が少ないから” “店頭での購入や手続が苦ではない” “ダウンロードや登録が手間に感じる” “情報流出が心配”
これら5つの理由を別の言葉で言い換えると下記の言葉に置き換えられます。
“サービスの存在を知らないから” ⇒ 『認知』
“利用する機会が少ないから” ⇒ 『活用頻度』
“店頭での購入や手続が苦ではない” ⇒ 『(導入する)メリット』
“ダウンロードや登録が手間に感じる” ⇒ 『手間』
“情報流出が心配” ⇒ 『不安』
これらの言葉で整理すると、利用していない人は各サービを以下のように捉えているといえそうです。
「乗車券予約」 ⇒ 利用する『メリット』は高いが、そもそもの『活用頻度』やサービスの『認知』が低い
「モバイルオーダー」 ⇒ サービスの『認知』は高いが、『メリット』が低く、その割に『手間』がかかる
「ネットバンキング」 ⇒ 利用するのに『不安』はあるが、『活用頻度』が高いので『メリット』は高い
余談にはなりますが、上記イメージを踏まえて施策を打つことで利用者をより増やすことができるのかもしれません。
「乗車券予約」であれば、より『認知』を高める施策。
「モバイルオーダー」であれば、活用メリットを増やす(例えば追加ポイント付加)、登録の『手間』をより簡易にする。
「ネットバンキング」はより安全性を打ち出し『不安』を取り除く、などなど。
◆調査結果④ 利用していない人をどう思うか?
筆者も感じていますが、実際に利用してみると極めて便利で、利用していない人がなぜ使わないのか?とても不思議に感じます。そこで、各サービスを利用している人が、利用していない人をどう思っているのかをフリーアンサーで聞いてみました。
各年代の特徴的な意見は下記の通りです。
・10~20代(低年齢層):「周りはどうでも良い」 「何とも思わない」 「別にいいと思う」
⇒ 他人はどうでも良い、何とも思わない
・30~40代(中間層) :「個人の自由」 「現金しか使わない人には関係がない」
⇒ 人それぞれ、環境も違う、冷静
・50代以上(高齢者層): 「使いだすと便利」 「もったいない」 「使えない人は損をしている」 「周りに薦めたい」
⇒ 自分は得しているといった優越感を感じている
あくまで仮説ですが、この結果から世代ごとのデジタルサービスに対する考え方か浮かび上がってきます。低年齢層は幼少期からスマホがあり、日頃から様々なデジタルサービスを活用しているため、さほど特別なことに捉えていな、行列を解消してくれる、という意識も少ないようです。中間層は低年齢層ほどではないが、比較的冷静に必要に応じて活用している様子がうかがえます。高年齢層は、昔から並ぶことに慣れているので、便利と感じるレベルが他の年代層よりも高い。そのことから使っている自分に優越感を感じていると思われます。
◆まとめ
ここまで、行列を回避できるデジタルサービスの利用動向を見てきましたが、それぞれのサービス内容や世代によって差があることが分かりました。そこには、サービス自体の利用頻度も影響していますが、それと同時に、「得られるメリット」と「登録するための手間」のバランスが大きく影響している気がします。過去の経験ですが、筆者もETCサービスをなかなか使いませんでしたが、ETC割引が始まった途端に導入したことを思い出します。
そもそも、提供企業がこのようなサービスを行っているのは単に行列を解消するためだけではなく、利用者の利便性向上、そのことによる他社との差別化、人件費の削減など様々な目的があるはずです。また、より多くの方々に利用してもらうことで、利用者データの収集・分析・活用などにも広がっていくはずです。
生活者にとっても企業にとってもメリットを得られるデジタルサービス、より多くの方に正しく理解してもらい、有効に活用して頂きたいものです。
調査:豊田哲也、柴圭祐、飯野由季、安藤亮司
文章:安藤亮司