バカン『待つをなくす』 混雑状況のリアルタイム可視化

2024.08.01 行列・混雑解消

一口に“行列”や“混雑”といっても、世の中には数えきれない種類の人混みがある。その一つ一つの行列/混雑をいかに解消していくか。我々デジタルわかる化研究所は『行列/混雑解消サービス』を提供している様々な企業にインタビューを行い、行列/混雑解消に向けたヒントを探っていきたいと考えている。その第一弾として、『待つをなくす』という点にフォーカスしてサービス展開している企業からお話を伺えることになった。その名も株式会社バカン。『いま空いているか1秒でわかる、優しい世界をつくる』ことをミッションに掲げるバカンの代表取締役社長 河野 剛進 様 と 広報ご担当の原田 真希 様にインタビューをさせていただいた。

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▼バカン様 会社プロフィール
2016年6月8日設立。社員数は76名(2024年7月現在)。センサーやカメラなどのテクノロジーを活用しながら、人やモノの混雑・空きデータを取得・解析して社会課題を解決する様々なソリューションを提供する会社。ミッションは『いま空いているか1秒でわかる、優しい世界をつくる』。“地方創生SDGs官民連携プラットフォーム 3号会員”に認定されており、SDGsへの取り組みを推進中。

 ▼公式HP
https://corp.vacan.com/
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――まず初めに、バカン様の提供しているサービスについて教えてください。

▼バカン河野様
世の中から『待つをなくす』というコンセプトで、サービス展開しています。バカンという会社名も英語のvacant(=空いている)が、社名の由来です。『いま空いているか1秒でわかる、優しい世界をつくる』という思いでスタートした会社なので、そこに特化しています。例えばレストランの空き状況だったり、トイレの空き状況だったり。他にも商業施設の喫煙所やイベント/催事や、公共の場ですと、投票所などの混雑状況も可視化しています。変わったものだと避難所の空き状況なんかも可視化できるようにしています。こういった様々な場所に『行ってみたけど、混んでて入れなかった』ということをなくしていきたいと考えています。

▼デジタルわかる化研究所
東京駅のエキナカ商業施設“グランスタ”の事例も拝見しました。グランスタなどの商業施設は連日大勢の人で溢れているので、空き状況が可視化されるだけでも、大きくストレスが緩和されますよね。

▼バカン河野様
そうですね。まずは“見える化”すること。そして必要があれば、その空間自体をコントロールしていくことが重要です。行列の管理だったり、座席そのものをリアルタイムで取り置きしたり。いわば予約に近いアプローチですが、空き状況を見える化して、取った後に決済する仕組みなどを提供しています。

デジタルわかる化研究所
混雑状況の可視化をスタートとしつつも、そこからワンストップで席を取っておいたりするなど、可視化の先まで御社のサービスとして提供出来るということですね。『行列をコントロールする』という部分をもう少し具体的にお伺いできますか。(コントロールするための具体的な方法やポリシーなど)

▼バカン河野様
まずは、可視化をした上で、施設や広域エリアをマネジメントしていく上での必要な機能を、状況に応じて提供しています。行列をコントロールする上で、導入先のニーズも叶えていかないと話は広がらないと思っています。導入先というのは、商業施設で言うテナントであったり、それを管理してるディベロッパー/プロパティマネジメントだったり。関係者それぞれにとってWin-Winの内容になっていないとこのサービスは広がっていかないんです。例えば、導入先の分かりやすいメリットは、我々が空間自体をマネジメントすることによって、売上が上がるのか、運営コストが下がるのか、になると思います。商業施設の運営者にとっては、各店舗の混雑が平準化されて『こっちの店舗がダメでも、空いているこっちの店舗に行く』というのは分かりやすいメリットで、実際にそういう行動というのは数多く起こっていると思います。

混雑の平準化の話で言いますと、実はずっと行列のある店舗は少ないんです。例えばお昼時はレストランが混んでいる割に、カフェ業態のお店は空いている店舗も多い。そこで、利用者の方たちに『カフェではオムライスやスパゲッティなどの食事が取れる』という情報をセットにして空き状況を出していくことで平準化を図ります。逆に15時くらいになるとカフェがすごく混んでくる代わりに、レストランは空いてしまう。そのタイミングで『レストランはカフェ利用も可能です』という情報を公開していくことで、両店舗に対して平準化のメリットを生み出し、空いている時間の有効利用が出来ると考えます。またホテルを例に出すと、宿泊希望の方から『どこが空いていますか?』とか『今行ったら待たされますか?』という旨の電話問い合わせが多いみたいです。そこに我々のサービスを導入いただくことで、そのような電話確認対応の工数を抑えられることがメリットになると思います。結果、ホテル側だけでなく電話確認をする宿泊者側のストレスも緩和することができます。目的の場所に行って、“行列を見て諦めて帰ってしまう”というのは、実はどこでも起こり得る行動だと思うんです。混雑を可視化する弊社サービスによって、現地に行く前に確認できる。その混雑情報が『どこで見えるのか』だけの違いだと思います。

▼デジタルわかる化研究所
以前、ディズニーランドもそうでしたね。乗りたいアトラクションに待ち時間を歩いて確認しに行って、120分待ちだから『他のアトラクション行こう』と行動していたのが、現在ではパーク内で専用アプリを立ち上げ、全てのアトラクションの待ち時間が現在地から見ることがきるようになりました。“待ち時間を確認し、行列が長いと他に行く”という行動自体はそんなに変わらないですよね。

▼バカン河野様
そうですね、これが混雑管理の一般的な考え方です。またカフェやフードコートなどは、誰も座席を管理していない場合も多いので、このような場合はそもそも行列管理すらできないことが課題になります。私たちとしてはその課題に対して、座席単位で無人管理できるような仕組みを提供しています。

カフェなどは“予約して行くぞ!”という感覚があまりないと思います。休憩がてらに“今行くか行かないか”だと思うので、リアルタイムで席を取り置きをしてあげるのがポイントです。仮に予約を9時~で取った場合に、その前の8時30分に入店されると、受け入れできない可能性もある。そうではなく、『今から取り置きするぞ!』とすることで機会ロスもなくなりますし、その取り置きに対して課金もさせることができます。そうすると、利用者にとっては“ちょっとお金払うだけで、確実に座れるようになる”というメリットもありますし、店舗側にとっては“これまで生まれなかった新しい収益”というメリットが生まれます。オペレーションコストをかけることなく、システム入れるだけで簡単に運用ができて、“誰がどう使ったか?その座席がどう回転したのか”というのも見える化できる。その結果を見ながら、新しい打ち手なども模索することができるのではないかと思います。

▼デジタルわかる化研究所
非常に興味深いですね。そこに関わるすべての人にとって“Win”となるサービスでなければ、導入には至らないですよね。 

▼バカン河野様
表現方法を工夫することは大切にしています。要は、あんまりネガティブにならないような、『行列があるよ/ないよ』だけだったら導入してもいいのか。情報の出し方をコントロール・チューニングして、落としどころを見つけていくというのは、大事なポイントかなと思いますね。技術的な面ではたくさんできることありますが、感情面でも受け入れ先を理解しながら進めていく必要があると考えます。

例えば避難所で言うと、2020年10月の台風の際、地域にいくつ設定されていながら、近所の人の動きに同調してしまい、一か所に集中してしまうという状況が発生したようです。避難所の混雑状況を、リアルタイムで発信・情報共有する術がなく、ようやく避難してきた方を受け入れられずに『もう入りきれません』と、入口で言われその後たらい回しにされた、という問題も発生したようです。このような事象は人の命にも関わることですし、解決していきたいと思っています。導入先にもしっかり意義を理解してもらって、情報配信をすることで人の命を守っていく。飲食店などとはちょっと性質が異なっており、人の命を守る上での打ち手をしっかり考えていく必要があります。導入先にも避難者にも負荷がかからないようにすることが非常に重要です。むしろ負荷は減らしていくくらいでないといけないと思っています。

▼デジタルわかる化研究所
お話しいただいた商業施設や有事の際の避難所の混雑状況などを確認したい人は、御社のサービスをどのような形で利用・閲覧できるのでしょうか。

▼バカン河野様
様々なパターンで対応できるようになっています。まずはその施設の公式サイトに連携するパターンです。弊社HPにリンクするバナーを貼ってもらったり、 QR コードを貼ってもらったりしています。またLINEの“リッチメニュー”で簡単に飛べるようなメニュー組み込めたりしますので、LINEで友達になってもらって、情報を取るようなパターンもあります。他にも、APIを提供し、1から開発するパターンなども考えられます。

ただ、完全にデジタルのサービスだけですと、デジタルデバイド解決は難しいと思っています。視覚的なものであったりとか、音声的なもの(現状は未導入)を組み合わせて、わざわざ検索しなくても閲覧できるサービスに今後力を入れていきたいと思っています。例えば、“検索しなくても閲覧できる仕組み”として、デジタルサイネージで情報発信するパターンもあります。商業施設に入っているものであれば、『ここの飲食店が空いてるんだ』と一目で見ていただけるように心がけています。

▼デジタルわかる化研究所
避難所のお話で言うと、自分がいる地点からそこに行くのか行かないのかみたいなことを判断することになると思います。有事の際なので動ける範囲は狭まっていますよね。そういった時に、例えばXなどのSNSで『今このリンクに遷移してもらうと、避難所の混雑状況が見れます』という発信もしたりするのでしょうか? 

▼バカン河野様
はい、仰る通りです。避難所が“地図上で見える”というのがポイントです。私たちがサービス提供するまでは、施設名と住所だけで避難所を探すしかなく、非常に大変な作業でした。有事の際、必ずしも自分の町にいるとは限らないからこそ、自分の今いる場所から直感的に地図上で避難所が分かるというサービスをユーザーに向けてご提供しました。その取り組みが、口コミで各自治体に好評を得て導入先が増え、今では約1万箇所を超える避難所の空き状況を可視化することに繋がりました。とは言え、日本全国で見ると、まだまだ可視化できてない場所はありますので、これからも広げていけるような仕掛けをしていきたいと考えます。

▼デジタルわかる化研究所
社会意義につながる素晴らしい取り組みですね。

▼バカン河野様
ありがとうございます。自治体からするとたくさん避難所を開設したら、当然混雑で人が入れないというリスクは下がります。ただ、そうするにはお金が非常にかかります。備品を数多く配置しばければならなかったり、オペレーションが増えたりするので、人手も必要になります。なので、出来る限り少ない避難所数で運用したいという思いもあります。だからこそ混雑に関する情報がちゃんとユーザーに届かないと、集団心理/群衆心理が働いて、みんな同じところに一極集中してしまうことになります。そのような状況をなくしていくことは、非常に重要な考え方だと思っています。情報によって自分が安心できる行動をしっかり取ることが、結果として街全体のキャパシティを最大化すると考えます。 

▼デジタルわかる化研究所
御社の取り組みを、災害が起きる前に伝えておくことがベストですね。例えば各自治体から『有事の際、ここから混雑状況を見ることができますよ』という、いわゆる避難訓練のような発信ができているといいですね。

▼バカン河野様
そうですね。台風などは気象情報を確認し、比較的早くから準備はできますが、突如発生する地震などは、準備できないので事前に確認できるのがいいですよね。私たちは元々オフィスであったり、商業施設の混雑状況可視化など“普段使いしていただく”ところから始めています。その中で、現在は派生して“防災(避難所の可視化等)”もやっていますけれども、防災だけのサービスですと、いざというときに使いづらいものになると思います。なので、この“フェーズフリー”という考え方で、日常(商業施設・観光・イベント等)で使ってもらった上で、それを有事の際には防災でも使える、という考え方で浸透させていくことが重要だと思います。

――次に御社のサービスならではの強みや特徴をお伺いしたいです。競合他社さんなど含めた市場のこともお話を伺えればと思います。

▼バカン河野様
私たちは『混雑解消』『待つをなくす』という分野を中心に特化しています。例えば、『うちの得意な“カメラの機能”を使って何かしよう』といった考え方だと、トイレなどの空き状況は可視化することができません。(=カメラはトイレには入れられないため)また行列管理だけにフォーカスすると、行列ができないようなカフェやフードコートにはサービス提供できないですよね。予約サービスも同様のことが言えると思います。私たちは混雑の可視化、あるいは空間のマネジメント(混んでるところのマネジメント)を統合的にできることが強みです。弊社が保有しているvCoreというシステムによって、センサーデータや画像データ、タブレットのデータなどを統合的にリアルタイムで束ね、データの違いを吸収した上で配信できる、という仕組みを持っています。これがあることで、この“施設全体”の空き状況を統合的に全て可視化できます。

商業施設1つ例に考えた場合、トイレの空き状況からイベント/催事場の混雑状況、各階喫茶の空き状況などを可視化するには、それぞれ違う技術が必要です。それを総合的に管理できるというところが、我々の大きな武器の一つです。ここまで横断的にやれる企業は、日本では弊社くらいだと思っています。また管理画面がしっかりあって、簡単に写真や営業時間を変えられる仕組みも持ち合わせています。大浴場の混雑可視化で考えると、細かいですけど男女の入れ替え機能も必要になります。こういうところまでしっかり作り込んでいるかということが実は大きな違いになります。いかに導入してくださる施設/エリアの運用を楽にしながら、利用者にとって意味のある情報を発信できるか、というところに基づいて作り込んでいるというところが重要なポイントとなります。

▼デジタルわかる化研究所
ありがとうございます。一つのことではなくて、全てを高い精度で細かくトータル運用できるというところの強みですね。

▼バカン河野様
はい、その通りですね。施設からすると、サービスの公平性を店舗ごとに担保する必要があるので、『カフェではできない』といったことは避けたいはずです。カフェでは行列管理は使えないので、先ほど申し上げた取り置きの技術なのか、カメラを使った混雑検知技術なのか、シチュエーションや施設ごとにアプローチの仕方を変える必要があります。個々の技術をそれぞれ別会社に頼もうとすると、統合コストなどが非常に高くつきます。それを一気通貫で出来る弊社に依頼いただくことによって、依頼する側も手間もかかりません。

――そもそも初めに『このサービスを立ち上げよう!』と思ったきっかけや背景を教えてください

▼バカン河野様
自分の体験からなのですが、私自身が時間をいとわずにたくさん働いてきた人間でして。昔はそれで楽しかったのですが、結婚して子供が生まれてからは、劇的に自分の中で価値観が変わりました。会社行く前に子どもを保育園に連れて行ったりとかする時間や、週末家族と過ごせる時間も限られているので、すごく大切だなと感じるようになりました。その中で子どもを商業施設に連れて行って、家族でランチ場所を探すというシチュエーションもよくありました。どこが空いているか分からなくて、探し回っている間にも子どもが泣き出してしまい、『帰ろうか』というのが何回か繰り返していたら、だんだんと外出自体がすごい怖くなってしまいました。それってすごくもったいないなと思っていました。せっかくの良い体験の機会なのに、最後の最後で嫌な体験になってしまう。であれば、『行ってみてダメだった』ではなくて、『行く前に分かる』ようにすることで、無駄な行動をしなくて済むし、心にちょっと余裕が持てるのではないかなと考えたのがきっかけです。

ゆとりを持てるようになることで、他の人たちにも少し優しくなれるし、良い連鎖が起こるのではないかと思いました。そんな少しずつの時間を大切にしていくような取り組みができたらいいなという思いで、バカンという会社を立ち上げました。避難所などの場合、より緊迫した状態になっています。運用する側の方も被災されている方がほとんどなので、不安になっていますし。支援で来てくださる方もいらっしゃいますけど、なかなか対応しきれなくて、心の余裕がない。といった時に、それを少しでも楽にできて、『待つをなくす』取り組みがお力になれると、やって良かったなと実感します。

――デジタルが苦手な方にもわかるような仕組みは、音声や視覚を意識して作っていきたいというお話がありましたが、今時点でUI・UXの部分で工夫していることがあるようでしたら教えてください。

▼バカン河野様 
直感的な操作/簡単にできるというのがポイントかと思います。ユニバーサルデザインというのは非常に重要な考え方だと思っています。どなたででも見やすいデザインだったりとか、色味であったりとか。弱視の方向けに、どの色だったら見やすいか検討しながら、色味を切り替えられるようにしています。また車椅子の方でも操作しやすい高さにサイネージ筐体を置くことで、できるだけこう多くの方に使ってもらえるような UI 設計を心掛けています。

またサービスの特性上、日本人だけでなく、海外の方に対しても同じように使ってもらいたいなと思っています。例えば、日本人は混雑状況を『〇・△・×』で表示したくなることがあると思います。ただ、これは海外の人たちからすると、必ずしも日本人の直感と一致しません。『×』がネガティブな意味ない地域もあります。なので、ユニバーサルかつグローバルに『少なくともこれだったら理解可能なものだよね』という形で解釈を変えて、設計することが重要です。もちろん多言語対応はしていますし、訪日外国人の方にも対応できるようにしています。またデザイン以外の体験という意味で言いますと、原則空いている場所から見つけてもらえるといいなという思いがあります。ですので、空いている店舗などが優先的にマップに表示されるようなロジック設計を行っています。素早く空いているところを探すことができるという仕掛けですね。

――実際に御社のサービスを導入されている企業・団体様のお声や感想、反響などあれば教えてください。

▼バカン河野様
例えば、商業施設のかき氷イベントとかを実施すると周辺の施設の回遊性みたいなのが上がったというお声をいただきます。商業施設で催事をやる場合は、基本的には『上の階に上がってほしい』などの思惑があると思いますが、まさにそれを促せると喜んでいただけます。『混んでいるのであれば、ちょっとの間だけ違うところに行こう』とかで 『空いてきたから行こう』という行動を弊社サービスによって喚起できているのだと思います。回遊する間に、商品と出会う可能性もあり、購買行動にもつながります。他には各階喫茶ですね。百貨店に必ず配置されていますが、各フロアによって使われる頻度や混雑状況が大きく異なります。『こだわりはないので、空いているとこに素早く入りたい』という方も結構いらっしゃいますので、そういう願望に対して、店舗側のオペレーション負担なしで、施設側が用意した仕組みでユーザーの体験も変わるというのは、従来の行列管理の概念とは少し違っていて、便利だよね。というお言葉をいただいていたりもします。

その他、百貨店のトイレの空き状況の可視化をした時のことです。その百貨店の2階女性トイレがすごく混んで困っているとお話がありました。2階の男性トイレを潰そうか、なんて話をしながら実際の数値を見ると、2階の女性トイレだけは非常に混んでいるのですが、3階~ 5階のトイレは実はスカスカでした。むしろ男性トイレの方が恒常的に埋まっている率が高かったのです。このように実際にセンシングして数字で見ていくと、やるべき打ち手っていうのが変わってきます。男性トイレをつぶすのではなく、この2階の女性トイレから3階~5階に誘導することがベターな策だったということです。トイレの工事も不要でコストもかからず、混雑改善が出来て良かったというお話をいただきました。インフォメーション(総合案内)でも混雑を見えるようにしたことで、上の階のトイレへ誘導しやすくなり、オペレーションも変わったというお話を聞いています。

一方で、避難所に目を向けると、職員同士も周囲に対して情報を提供するということがあまり出来ていないという課題があります。先ほど申し上げた“避難所のたらい回し”みたいな話で言うと、これまで、そういった運用自体をやったことのない方がスタッフとして派遣されるので、どこの避難所が空いているかというのはそのスタッフの方たちも分からないんです。それを分かるように可視化するだけで、運用側のストレスっていうのも減りますし、ユーザー側も『たらい回し合うんじゃないか』という恐怖心もなくなり、このような摩擦がなくなると伺っています。そのような口コミが広まって、200 以上の自治体/1万箇所ぐらいの避難所に導入いただいています。

――最後に御社のサービスついて、今後の見通しを教えてください。

▼バカン河野様
本当は救急車や救急医療(病院)も扱いたいのですが、現状まだできていないです。技術的にはできることが多数あると思うのですが、ステークホルダーやビジネスモデルが複雑で、『どこに導入相談をすればいいのか』『誰から導入費用をいただくのか』などが見極めづらく、実現できていません。実は過去にも何回か導入のチャレンジをしたこともありましたが、病院側の受け入れ態勢の話や救急医療の状況などもあるので、安易なことではないのです。ただ、救急車で受け入れ先の病院が見つからず、1時間たらい回し。なんて痛々しい話は絶対に解決したいな、という思いがあります。例えば脳梗塞などは、昔は助からない病気だったのに、今は助かる病気に変わってきていますよね。そういった病気は1分、1秒でも早く処置することが重要になります。時間によって回復の度合いが変わりますので、今後解決していけるといいなっていうのはありますね。将来的にもう少し弊社の体力がついてきたら、意地でもそこを実現して、多くの患者さんの命と、お医者さん(病院)を救いたいと考えています。

最初からお話している内容と被りますが、『いま空いているか1秒でわかる、優しい世界をつくる』というのを当たり前に日本中に届けていくっていうのをもうずっとやっていきたいなと思っていますね。救急車/救急医療の他にまだできてない分野がたくさんあります。日本だけでなく、世界中でこう使われるような仕組みになればいいなと思っています。少しでも余裕が持てるような新しい時間というか、自分たちがこれまで持てなかった“ちょっとしたゆとり”を持てるような、新しい世界を作っていけたら良いなと思います。

▼デジタルわかる化研究所
素晴らしい目標ですね。避難所や救急車のお話なんかは人命を救うところに直結するので、社会的意義も感じますし、本当に実現いただきたいです。その他、具体的に『この混雑状況の可視化にトライしていきたい』というのはありますか?

▼バカン河野様
公共施設の空き状況ってまだまだ見えていないです。例えば『あの体育館が使えるか』なんて調べても、空き状況が見えている自治体って実は限られたりします。空き状況が見えていたとしても、すごく古い仕組みだったりして、スマホ対応してない自治体もあります。サイトの階層が深くて辿り着かないとか、そういうものもありますし、枠抑え/決済までは出来ないものが多いです。その理由は、お子さん・シニア専用の料金体系があったり、市民専用の料金体系があったりと、複雑な料金設計があって対応ができないと聞いたこともあります。この問題はマイナンバーカードを使って本人認証したら解決できることですし、そのあたりを私たちがお手伝いできるといいなと思います。

今は地方過疎化が急激に進んでいて、地方人口が少なくなっている中で、施設の運営自体が厳しい自治体もあります。だからこそ、無駄な工数を削ってライトな作業にしていくことが大切です。ユーザー側が空いているかどうかを電話して、申込用紙をファックスして、職員側がそのファックス紙の内容をパソコンに打ち込んで、お金を窓口で受け取って、記帳して..。こうなると様々なオーバーヘッドがありますよね。そのあたりを適正に管理できれば、小さな町や村でも、今以上のサービスを提供できるようになると思います。日常では公共の施設予約・決済し、観光の際には有名スポットの混雑状況を可視化し、有事の際には避難所の空き状況を見える化する。といった一連の取り組みを渡したちがつないでいくっていうことをこれからもやり続けたいです。

▼デジタルわかる化研究所
すごく実感できるお話ですね。私の娘が中学一年生でバスケットボールのクラブチームに入っていて、毎月1日の朝6時に公共施設(体育館)の申込を一斉にやっています。各家庭の親が朝6時に眠い目をこすりながら対応しているんですよね。しかも、その市のシステムが古く、良く落ちるんです。復旧したころには『もう満枠です』と表示されて、全員でブーブー言ってるのですけど、でもそれしかないから今はそれでやるしかないという。是非改善していただけると嬉しいです(笑)

▼バカン河野様
そこら辺はやっぱ変えていきたいですね(笑)システム導入側もユーザー側もそのような不毛な時間を少しでも減らして、他のことに時間使えるようになっていくのが理想ですよね。

――おわりに(デジタルわかる化研究所より)

今回の取材を終えて、ご自身の実体験から「待つをなくす」という理念のもと立ち上げソリューションが、人命にかかわる情報提供まで発展していく過程は圧巻だった。混雑や行列を解消することは、施設側と利用者の双方にとって利便性が高まるだけではなく新しい時間やコミュニケーションを作り出し、これまで持てなかった、少しのゆとりが生んだ「優しさ」が、やがて世の中を変える。河野社長の起業時の想いが、ここにつながっていることに非常に感銘を受けた。当研究所の発足時の想いを再度みなで確認し、少しでも良い世の中となれるように活動していきたいと改めて想い直す非常に良い出会いだった。今回は貴重なお話を聞かせていただき、誠にありがとうございました。

ライター:デジタルわかる化研究所 吉本・原

 

【ライタープロフィール】

〇吉本 天志:2015年株式会社オリコム入社。OOHメディア部門を経て、現在の営業職に。当研究所立ち上げのタイミングから参画。趣味は野球観戦・友人との酒席。


〇原 隆太:2回の転職を経て、2011年株式会社オリコミサービス入社。営業職一筋20余年。当研究所には、2023年から参画。グループ会社から研究所に新しい風を入れている。

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