【BABA lab代表/桑原静さんインタビュー】
「長生きするのも悪くない」とみんなが思える世の中へ。高齢者のものづくりを軸に、世代を超え地域の人同士のコミュニティの場を提供する。

2021.07.04 インタビュー

 

 

シニアコミュニティでのデジタル化は、ゆっくりと様子を見ながら。必要なのは何かのきっかけ。自分も何か楽しめそうだとわかれば、そこでハードルも乗り越えていくはず。

——最初からこの一軒家をBABA labさいたま工房にはあてていたのですか?

(桑原)空き家を借りました。探すのにはかなり苦労しました。浦和駅近くだと家賃も高く、工房ということもあり、ミシンを並べるためにもある程度の広さが必要なのです。前職で空き家や空き室を活用した地域の事例を全国でたくさん見てきたので、どこかにきっと空き家があるだろうとは考えていました。 その前提で探して、ようやくここを発見して(笑)、大家さんのご協力も得て借りることができました。
 先ほども言ったように、シニアになると身体能力低下の不安から自転車に乗らなくなる人も増えてくるので、どうしても行動範囲が狭くなってくるんですね。だからこう言った場が隣町にあればいいじゃんってわけでもなくて、自分に合ったテーマの働ける場所とコミュニティが、できれば徒歩圏内に点在してるってのが一番なんですけれどもね。

——BABA labは非常にきれいで見やすいホームページを作成されており、しかもメンバーのシニアの方とYoutubeチャンネルなどもやっているなどデジタル活用も積極的に行っている印象があります。メンバーのおじいちゃんYoutuberがやっている「のめり.comhttps://xn--u9jvb1a.com/なんて、とても面白いですよね。
 
(桑原)「のめり.com」をやってる人は80代の堀池さんという方なんですけれども、とはいえ撮影と編集を担当している手塚さんという方は、40代の頃から趣味で動画づくりをやり込んでいる人なんです。なので私は動画をYoutubeへ公開する作業しかやってないんですよ(笑)。

——総務省によると2019年9月時点での65歳以上の高齢者の人口の割合は28.4%となっており、今後も割合は増加していくとしています。シニアのデジタルの活用をどう進めるのか?ということは社会的にも非常に重要な課題として我々は捉えています。実際のコミュニティで高齢者の方々とのデジタルを介したコミュニケーション上の課題ですとか、 Youtubeをやろうなどと言った時の反応ですとか、そういったところでのご意見をお聞かせください。

(桑原)コミュニティの中でのデジタル活用として、一番期待しているのは連絡手段ですね。メンバー同士の連絡や情報共有は、今までファックスや固定電話、手紙、携帯電話といろいろ使わざるを得なかったのですが、最近ではLINEグループに集約できつつあります。それでも事務管理をやっている若いパートさんがやっているような、データをクラウドに乗せて売上管理…なんていうことをシニアに覚えてもらうのは難しいです。
 全部デジタル化すればいいかっていうと、私はそうは思っていません。極端な話、今でも世の中にあるデジタルサービスを使えば、ネットを通じて何でもできてしまって、工房に来なくて良くなっちゃう。でも、ここに来て、「昨日の夕飯なんだった?」とか、趣味で作っている小物を見せ合ったり、「作業のここが分かんなかったんだよー」と相談したり、そういうリアルな生身のコミュニケーションというのもすごく大事だと思っています。だからどこまでデジタル化を進めて行こうかというのは、いつも様子を見ながらやっています。私にとってもコミュニティにとっても、リアルを大事にしたほうがいいところは残しつつ、例えば業務連絡や体調管理、間違いやすい金銭のやり取りとか、そんなところはデジタルに頼った方がいいなというのは感じています。

——急にデジタル化しても、ついて来れない人もついて来ない人もいる・・・ということですよね。

(桑原)それは別に年齢だけの問題じゃなくて。 40代だって・・・同年代だって全然やらない人とやる人といますよね。80代でもバリバリやってる人はいるし、40代でも全然できない人もいるし。年齢だけじゃなくて、保守的な性格かとか、生活環境とか、パーソナリティによるところが大きいんじゃないかなとも思います。初めてのコトとか新しいことに抵抗感ある人っていうのはどの年代でもいる反面、「のめり.com」の堀池さんみたいに、新しいものが好きで、新しいコトやりたいっていう人は、年齢関係なくやりたがるんだと思います。スマホに新しいアプリをすぐ入れちゃうし(笑)。

——「のめり.com」に触発されて、メンバーの方が「自分もやってみよう!」というのもありましたか?

(桑原)「堀池さんがやれるんだから自分もやろう」って思った方はたくさんいますよ。なのでその後、Youtuberになろう!というキャッチフレーズで50代以上限定で動画編集講座を行いました。20名ぐらい参加されましたよ。参加した人は「すごい楽しかった!」って言ってました。 動画を取ってもスマホに入れっぱなしの人が多かったみたいで文字を入れて、誰かに送れるという楽しさに気づかれたようです。

——その講座にはBABA labに登録している方が参加されたんですか?

(桑原)一般に募集しました。BABA labのシニアYoutuberに関する取り組みや「のめり.com」のことを日経新聞に紹介していただいたんです。新聞の記事を見た方がホームページを見てくれて、講座に参加してくれたって感じですね。しかもその参加者の人たちが、せっかく参加して動画作るだけじゃ面白くない!コンテストとかあればみんな頑張る!っていうことで、その後に講座の出口として動画コンテストやる羽目になって(笑)。さいたま市や埼玉県の共催まで頂き、チラシまで作りました…。
 20作品ぐらい応募がありました。こんな風に、みなさんの希望に応える形にして上手く持ってくと、初めてのことや難しいことでもみんな頑張るんですよ。

——こうやって動画講座に来る方はまだデジタルに対して前向きな方だと思うんですが、もちろん来ない方、そんなことしたくないと思う方もいらっしゃるわけですよね。

(桑原)それは3、40代の我々だって、周りにYoutuberがいますか?・・・という話と一緒ではないですか。「何でやんないの?」って聞くと、「いやいや別に興味がないし」と答える。それはどの年代でも多分理由は同じで、興味はあるけどやるほどではないと思っていたり、きっかけがなかったり。でも、逆にきっかけがあれば始めるかも知れないですね。例えば、かわいいバッグの作り方の動画を、同世代の人がyoutubeに公開して、コメントやいいね!がたくさんついてたりする、「私も同じようなもの作っているし、公開してみようかな」と思っていたときに、たまたま近所で動画編集講座がやっていた!(笑)とか。
 何かきっかけがあって、それで自分も何か面白そうなことができそうだとわかれば、そこで心理的なハードルを乗り越えるんじゃないでしょうか。

——この前、70代のシニアの方々の座談会をやったんですね。その時の発言として頻出したのが、「俺そんなデジタルサービスは必要ないもん」って言葉だったんですよ。例えばスマホのバーコード決済とか。そんなのセキュリティが不安だし、俺には必要ないし、必要ないから便利とも感じないとおっしゃっていました。

(桑原)多分そういった方は、本当に必要がないんじゃないですかね?。いつも行く商店で、現金で払えばれそれで済ませるし。もしその商店がある日PayPayしか使えなくなって、店主が「一緒に私とPayPayアプリを入れましょう」って優しく言ったら、多分そこで切り替えるんじゃないかなと思います。

——それが先ほどおっしゃられていた、その人にとってのきっかけということですね。

(桑原)年齢関わらず、足りてる時に敢えて新しいことに挑戦するって、億劫になってきますよね。それが特に高齢になってくると、記憶力も落ちてくるし。今さら新しいことにわざわざ挑戦して失敗したくないという気持ちもあると思います。 それと、スマホやパソコンでわからなくなった時に、我々の年代だったらまだ会社の同僚や友達に聞けるかもしれないけれども、高齢になると聞ける人が少なくなるんですよね。何度も息子に聞いたら、また怒られるかも…なんて結構いろんなこと考えちゃったりして。
 ただ今の高齢者が、「それはやる必要がないから」っていうのは、割と本音なのかなと思います。

 若い子に私が「なんでTikTokやらないの」て言われたら、だってやる必要ないじゃんってきっと言いますよね(笑)。我々の世代で、TwitterやFacebookから乗り換えてTikTokにしますかって言われれると、ちょっと抵抗感がありますよね。それと同じことだと思うんです。高齢者が「スマホ決済しないよー必要ないよー」みたいなことは。でもTikTokを同年代の同僚や友達がやりだして、もうすぐFacebookはなくなっちゃう・・・みたいなことになったら、あーじゃあそこがタイミングかな?みたいな。それが一つのきっかけになると思うんです。高齢者を特別視しなくても、自分のことに置き換えるとわかることがいっぱいあるような気がするんですよね。

 

(次ページに続く)

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2021年デジタルの日