子どもたちの健康をデジタルでつくる 悩み事起点のソリューションビジネス
NTT東日本グループが睡眠改善に取り組む。
通信と睡眠?
そこにデータが関係詞となっていくと、事業目的が見えてくる。
そのインフラが未来の社会課題を一つずつ解決していくための意志を持ち始めた。
東日本電信電話株式会社
デジタルデザイン部地域ソリューション開発部門デジタル革新本部
プロダクト開発担当課長
Sleep Network Hub ZAKONE代表 佐々木翠
2011年新卒で東日本電信電話株式会社に入社 岩手県で災害対策
2014年ビジネス開発、新規事業 様々な企業との協業等
2019年NTTコミュニケーションズにて社内起業家の育成事務局や自身でも立ち上げ
2021年からスリープテック事業
東日本電信電話株式会社
埼玉支店第二ビジネスイノベーション部産業基盤ビジネスグループ
産業基盤ビジネス担当
Sleep Network Hub ZAKONEメンバー 田村聡美
2017年東日本電信電話株式会社長野支店 民需等営業
2022年埼玉支店 ダブルワーク制度でスリープテック事業にも参画
2023年学校法人佐藤栄学園(さいたま市)と東日本電信電話株式会社(以下NTT東日本グループ) 埼玉支店(さいたま市)が『最新テクノロジーを用いた次世代教育協創の連携協定』を締結。次世代教育協創に向けた連携をスタート。
2024年NTT東日本グループと学校法人佐藤栄学園がNTT DX パートナーとともに「スリープテックプロジェクト」に、さとえ学園小学校にて「睡眠×テクノロジー」教育のモデル化に向けた授業をスタートさせた。
さとえ学園小学校でのスリープテック授業
-そもそも、なぜNTT東日本グループでスリープテックをやるようになったのでしょうか?
佐々木 NTT東日本グループでは通信を使うのだけではなく、通信で何をしていくか?にシフトしつつあります。
通信を使っていただくということ以上に、それで何をしていくかですし、もちろんDXを推進していきます。特に地域に根ざしたのビジネスとして、地域貢献に何ができるかを考えていくようになりました。
事業の半分はこれまでのようにインフラを守り、もう半分では新しいビジネスとして新しいソリューションの提案や、「地域の困りごと」を解決するようなビジネスを開発しているんです。
-まさにビジネスを考えて生み出すしごとですね。
佐々木 技術ありきではなく、社会課題ありきでプロジェクトを進めているんです。
プロジェクト立ち上げ当時、上からも下からも仕事が来ていてすごく忙しい時期でした。
もっと生産性を上げるにはどうしたらいいだろうと思っていた時に、「パワーナップ」(生産性をたかめるための昼寝)に着目しました。
でも睡眠の大事さってまだあんまり浸透していないので、いろいろな企業と「共創」しながらコトをつくり、市場をつくって、睡眠の悩みを解決できないか?と思うようになり。
睡眠は一番大切なのに、日本は一番寝ていないし、個人の問題として置き去りにされています。
少しずつ文化を作って、コミュニティを太らせて広げていければということで、睡眠版オープンイノベーション「Sleep network Hub “ZAKONE”」を立ち上げ、いろんな企業とコラボレーションして十人十色の睡眠の悩みを解決していこうとスタートしました。
-佐々木さんの想いですね。
佐々木 みんなで文化をつくりたい。単に健康経営といっても市場が未成熟なので、みんなでコミュニティつくっていかないと進みません。少しずつ大きくして、広げていくように。
-そこで「眠育DX」というキーワード。
田村 そうですね。眠育DXと言っていましたが、ちょっとわかりにくいので、今は「睡眠×テクノロジー教育」と言っています。
-小学校での授業はどのような経緯だったのでしょうか?
田村 もともと学校法人佐藤栄学園全体でネットワークインフラを担当させていただている中で、教育×ICTで何かおもしろいことができないかということをお話していました。
先生からのヒアリングでは、睡眠と記憶定着等の関係性の理解が薄いということをお聞きしました。
田村 良い成長には睡眠が大切だということは明らかにわかっている。「睡眠が大事だ」と伝えたいけど、エビデンスをもってそれを説明するすべがないと。どうやったら十分な睡眠をとってもらえるのか?という悩みがあったそうです。
そこで「睡眠×テクノロジー教育」として、「総合」の時間で授業をすることになりました。はじめは日本初というか、世界初の授業ですから、内容自体も先生達と相談して手探りで授業を実施していましたが、いい授業だと評判でした。
-具体的にはどんな内容でしたか。
良い睡眠には掛け算が必要です。さとえ学園小学校では1人1台のアイパッドが付与されているので、デバイスと「ブレインスリープコイン※」を使って睡眠環境や深さのデータからスコアの深堀をしてもらいました。
※寝る時にクリップ型のデバイスをパジャマのおへそ部分に着け、総合的に睡眠を計測し、その日の睡眠スコアをコインとして貯めていく仕組み
より高いスコアを得るために「試して学んで測って」、児童自身でPDCAをまわすということをしてもらいました。
特に「学ぶ」ことについては、私達が授業をやり、子どもたちが「なぜ睡眠が大切なのか、良い睡眠をとるために何をしたらいいのか」を考える機会をつくりました。
-結果はどうでしたか?
田村 平均の睡眠時間が30分伸びました。保護者からの評判もとてもよかったです。
子どもの睡眠時間は親からの影響が大きいといわれています。同じ屋根の下で同じ生活をしているので、どうしても親の睡眠時間にひっぱられてしまいます。
保護者の方々に対しても睡眠専門医を招いて「なぜ子どもには良い睡眠が大切なのか」という講演をやりました。
睡眠は「脳を作る」ので特に発達段階の子どもにとっては大事なんです。
佐々木 眠らないことによるリスクもたくさんあります。それがわかってきているのに、それを伝える機会がなかったのです。それを子どもうちに伝えておくことは大切だと思っています。
-先生たちはどんな反応?
田村 日常に溶けこんだ睡眠スコアという数字を見て、それがデータサイエンスなんだという学びになったとお話されてました。
子どもたちがデータだと意識せずとも、睡眠に関する数字をみてデータサイエンスを無意識に理解できたということが大きな発見になったようです。
-NTT東日本グループとしても大発見ですよね
田村 これからの未来を担う世代である子どもたちがデータやテクノロジーに親しむことをサポートしていくことはミッションだと思います。
-今後の展望を教えてください。
佐々木 ZAKONEは200社まで増えました。
企業数を増やしてコラボして睡眠改善のコトづくりをしたいです。睡眠不足は個人の問題ではなく、自治体や教育、企業の目線から解決できると思います。
寝てない時のリスクをみんな知らないですよね。それはしょうがないことで、睡眠の大事さなんて教育を受けていないからなんです。
解決のはじめの一歩として、地域や困っている人に還元していきながらコミュニティのサービスが広まっていけばなと考えています。
田村 さとえ学園小学校以外の教育機関でもこの取り組みを広げていきたいです。私立だからできることではなく、公立の子供どもたちにも睡眠改善をしてもらいたい。私たちが授業しなくても進められるようなコンテンツとして提供できるようになることが急務ですね。
先生たちも労働時間がかなり長く眠れてない状況だと思うので、そのサポートツールとしてアプローチもできたらいいなと思います。
所感
デジタル化されていく時代は終わり、私たちはすでにオールデジタルの世界で生活をしている。子どもたちはデジタルを学ぶ前に親しむことが教育ではなく、文化として定着してきている。
通信事業は、その文化におけるインフラストラクチャーとして機能している。
その時、私たちの周辺にはたくさんの「困りごと」も生まれ、その解決策がさらなる「困りごと」を生み出している。
数々のソリューション開発において、「お金、モノ、社会的地位」といった地位財中心で動いてきたデジタル事業から「健康、愛情、心、自由」などの非地位財へと拡大していることは、真の幸福をつくる持続可能な進化と言える。
人は幸せな方に動く。
だから、人の幸せをつくる。
それが、持続可能な社会を実現する。
この構想、プロセスに取り組んでいる人たちがいる。
デジタルわかる化の本質に触れた機会であった。
取材メンバー・ライター
飯野由季
2022年オリコム入社。データソリューション開発部を経て現在はストラテジックプランナー。2023年に当研究所へ参画。
西村康朗
株式会社分室西村 代表取締役。デジタルわかる化研究所のメンバーとして創設時から参画。
1986年株式会社オリコム 1990年株式会社博報堂 2020年株式会社分室西村設立