72歳のシニアインフルエンサー“きょうかのばあば”の活動の真髄に迫る

2024.04.08 インタビュー

皆さんご存じの通り、日本は高齢化社会になっている。総務省によると、2023年の高齢者人口(65歳以上)は3,623万人に上り、総人口に占める高齢者人口の割合は29.1%と過去最高を記録した。そんな中、シニアインフルエンサー“きょうかのばあば”が『デジタルテクノロジーに関する発信』をし続けている。同世代のシニアの方にポジティブな影響をもたらす発信を続けている背景や今後の展望などについてインタビューさせていただいた。

▼きょうかさん プロフィール
2023年3月に慶應義塾大学理工学部を卒業し、現在は外資系消費財メーカーでブランドマーケティングに従事。大学進学を機に上京し、祖母(きょうかのばあば)と2人暮らし。きょうかのばあば曰く、『彼女はマネージャー兼プロデューサー兼カメラマン』。

▼きょうかのばあば プロフィール
きょうかさんの祖母であり、シニアインフルエンサーでもある「きょうかのばあば」。1975年に新卒でプログラマーとしてのキャリアをスタート。また、過去ドイツに4年間ほど在住。現在は、茶道教室を営んでおり(茶道歴40年!)、裏千家の教授の資格を保有。

==【SNS・HP】================================
■TikTok:https://www.tiktok.com/@kyokanobaaba
■Instagram:https://instagram.com/kyokanobaaba/
■YouTube:https://www.youtube.com/@kyokanobaaba
■X:https://twitter.com/kyokanobaaba
■note:https://note.com/kyokanobaaba/
■HP:https://kyokanobaaba.com/
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――“きょうかのばあば”のSNSをはじめたきっかけを教えてください

▼きょうかさん
私は学生時代から、SNSを活用するのが好きで、得意でした。そんな中、大学進学をきっかけに祖母と2人暮らしを始めたときに、祖母が70代とは思えないほどスマホを使いこなしていることを知りました。その様子を見て、「これをSNSで紹介したらバズるのでは!?」と思ったのが、始めたきっかけです。私のInstagramに<私のおばあちゃん、今からエアビー(Airbnb/空き部屋シェアサービス)を活用して、泊まりに出かけるよ>といった旨の投稿をしたところ、友人から多くの反響をいただいたので、「よし、これを続けてみよう!」と活動を始めました。

ただ投稿するだけでは遊びになってしまうので、今後どういうコンセプト/ブランディングでやっていくべきか、は考えました。“おばあちゃんがデジタルを使いこなせる“という武器があるのであれば、日本のデジタル化を推進させる活動ができるのがいいな、という結論に至りました。

日本はデジタル化が遅れている国。少子高齢化で高齢者が多くなっているのにも関わらず、その高齢者の多くがデジタルを使いこなせないのが問題だと思います。そういった方々に対して、デジタルリテラシーのレベルの底上げが出来ると考え、“きょうかのばあば”を始めることにしました。

▼ばあば
きょうかからの『インフルエンサーやろうよ!』のお誘いは、恥ずかしいので3年間断り続けていましたが、最終的にはチャレンジしてみました。

▼きょうかさん
3年間、毎日しつこく言ったわけではないですよ(笑)半年に1回くらいのペースでおばあちゃんの気持ちを確認していました。それと同時進行で、私の就職先は決まっていました。SNSマーケティングのお仕事は学生時代から続けていて、就職した今でもその経験を活かしながらマーケティング関連の仕事に従事しています。そんな経緯もあり、おばあちゃんとしても『シニアインフルエンサーの活動で実績を作るっていうことが、きょうかが出世するきっかけになるのでは!?』と思ったみたいで(笑)それがシニアインフルエンサーを始める決め手になったみたいです。

▼ばあば
いざ、この活動するようになってからは、日々新しいものに触れるのが楽しいです。デジタルテクノロジーに関する展示会とかIT系の企業などにお邪魔するのが新鮮で。
一方で、私の大好きなお茶は歴史上、古くからあるもので、180度違う。そこにワクワクを感じます。まさに温故知新、古いものにも新しいものにも感動することができる、そこに魅了されました。

 

――“ばあば”とスマホとの出会いについて教えてください

▼ばあば
2019年までずっとガラケーを使っていました。ですが、周りがスマホを使っているのを見て、息子(きょうかさんの父)のお古のiPhoneをもらいました。最初は文字を打つのも大変だったのですが、次第にLINEの機能に魅惑されました。「こんなに簡単に連絡が取れるなんて、どれだけ素晴らしいものなんだ!」と気づいたのです。私の周りにもLINEを使える人が増えており、“イベント機能”も使いこなしながら、LINE上でお茶教室の出欠などを取るようにもなりました。

▼きょうかさん
これには私もびっくりしました。私でも使わないような“イベント機能”を使いこなしている(笑)教えてもないのに、と衝撃を受けました。日々スマホでできることが増えていく感じでしたね。

▼ばあば
一番初めにどうしてもデジタルに感じてしまう“壁・抵抗・拒絶感”をなるべく持たないようにしています。LINEの他に、今ではXも自身で投稿できるし、PayPayなども使えるようになりました。新幹線に乗るときにはスマートEXも便利ですね。ごった返しているみどりの窓口に並ばなくていいから、ものすごく快適に乗車券が買えます。元々きょうかが教えてくれて、使い続けています。恐らく使用頻度が高いと使いこなせるようになるんでしょうね。私は移動のために月1くらいのペースで使っていたので。

他にも遊園地などで行列に並ぶ人もいるが、今やアプリでその混雑状況を見ることができ、チケットを買えたりする。飲食店のモバイルオーダーなども行列解消のヒントですよね、並ばずにスイスイ自分の欲しいものが買えるんですもの。

今でも全てを使えるわけではないし、たまに困ることもあるけれど、基本操作は一人で使いこなせるようになりました。スマホさえあれば、辞書や地図だけじゃなく、目覚まし時計もいらない、カメラもいらない、電話もいらない、お財布もいらない..!近未来アニメで描かれるような“昔夢見た世界”になっていますよね。ここからAIがより一層発展したらどうなることか。本当にテクノロジーの進歩は凄いです。

 

――逆にデジタル活用で難しかったことを教えてください

▼ばあば
IDやパスワード覚えておくのが大変でしたね。それもあって、顔認証に変えるためにiPhoneXにも買い換えました。パスワードにも通ずることですが、やはりプライバシーや個人情報の問題などは少し心配になることもありますね。例えばネットバンキングなどは怖さを感じるときもあります。目に見えないものだから。やっぱり目に見えるものの方が安心感はありますよ、そのような時代に長い間生きてきたのだから。スマホは簡単に押せて、簡単に作動して、簡単に手続きできるからこそ、心配になることもありますね。

ただ私にはきょうかという相談相手がいるので、そんなに困ることはありません。デジタルのことを相談できる相手が近くにいることが大きいのでしょうね。そういった存在が近くにいないシニアのために、“窓口”があることが重要だと思います。今あるスマホショップの相談窓口なども非常に混んでいて、気軽に行くことができない人も多いですよね。そんな人たちのために、私たちがその【相談窓口】になれるといいな、と思いながらシニアインフルエンサーとして活動しています。その先駆者になれるように頑張りたいです。

 

――この活動に対して、周りからの反響を教えてください。

▼きょうかさん
お仕事を共にする企業さんからはユニーク・唯一無二な存在ですねと評していただけます。日本のデジタル化を促進させたいという同じ思いを持たれる企業さんも多いので、そういったところからはご一緒したいです、と言っていただけてありがたいです。

フォロワーさんからは、「元気を貰えます」「お勉強になります」「同じ商品を買いました」「大ファンです」といったように憧れられるおばあちゃん、って感じですかね。

私の父には今まで沢山のことにダメ出しされてきたけれど、“きょうかのばあば”の活動は唯一応援してもらえてる気がするんです。ばあばにもポジティブな影響があるからですかね。動画に出演したいのかな、みたいな発言も見て取れるときもあります(笑)また、親戚にも大ファンがいて、私たちの活動を広めてくれています。

最後に私の友人からですが、みんな“きょうかのばあば”を知ってくれています。

友人たちもみんな様々な企業に勤めている中で、シニアインフルエンサーのことを一番に想起してもらえる状態にあるので、お仕事があった時にお声がけしていただけるんです。

可愛いインフルエンサーは山ほどいます。ですが、ばあばみたいなシニアのインフルエンサーは少ないですよね。だからこそ、シニアがスマホやデジタルに触れるだけで非常に興味を惹くコンテンツになると思ったんですよね。

 

――新卒で入社したプログラマーだった時はどんなお仕事をされていたのでしょうか?

▼ばあば
本当にプログラマーの走り。家で仕事できる、と思って就職したのにそんなことはなかった。会社にある大きな部屋に冷房をガンガンかけて部屋いっぱいのサイズのコンピューターを冷やしながら、使っていた時代。専用のカードに穴をあけて、コンピューターに読み込ませてコードを書いていたんです。プログラマーはコードを書く人。そのコードを元に、キーパンチャーという役割の方がカードに穴をあけて、パソコンにコードを読ませていく。原始的な時代ですが、その時からパソコンはそばにあったので、今のインフルエンサーの活動に繋がっているのかもしれません。

 

――お二人の今後のビジョンや目標について教えてください。

▼きょうかさん
2024年中に【TikTok:3万フォロワー、Instagram:2万フォロワー】という具体数値を掲げています。とにかく動画発信を続けて、企業コラボやインフルエンサーコラボのお声がけをいただけるように頑張りたいと思います。またソーシャルメディア上の活動だけでなく、今回のように取材をしていただいたり、TVCM・WEBCMなどに露出したりすることも増やしていきたいと思っています。直近ではcrocsさん(外資系サンダルメーカー)とのお仕事をする機会もありました。今後、外資系内資系様々な企業とコラボレーションをしていきたいです。(crocsとのタイアップ内容:https://www.instagram.com/reel/C5ApPqWunxn/

▼ばあば
シニアの方のほうがスマホを必要としているのでは、と思います。足腰の悪い人はUberなどでタクシー呼ばないといけないし、ECサイトでお買い物して配達してもらったり、何かあったときに救急車を呼ぶために電話として持っておくとか。だけどシニアの方はスマホに拒絶感・恐怖感を持たれる方も多い。だからこそ、「こんな72歳のばあばでもスマホ使えているんだから、私もできるな!」と多くのシニアの方に思っていただくのが目標です。内容もその方たちにとって有益な内容になることを意識しながら発信しています。出来るだけシンプルに伝えることが大切だと思います。説明が長過ぎる使い方紹介の動画は敬遠されがちなので、いかに動画を見てもらうかは課題ですね。

 

――頻繁に行っている動画投稿の“ネタ”はどのように選定しているのでしょうか。

▼きょうかさん
基本は私がネタ探しして決めています。ただ中には“ばあば主導”で内容を決める動画もあります。
私が感動したのは、WiFiBOXの動画です。レンタルWiFiをスマホのチャージスポットのような形で借りられるサービスなのですが、「成田空港でレンタルして関西国際空港で返却」という一連の流れを、おばあちゃん自身で完遂していたのです。スマホのチャージスポットの動画は過去扱っていたのですが、そのときのことを思い出して応用出来ていたのが嬉しかったです。元々は『バズる』ってどういう意味?って感じだったのに、最近ではばあば自身が『バズる』って言葉を使ってくるんですよ。(笑)

▼ばあば
何事も1個目の高いハードルを越えることが重要なんですよね。そうすれば2個目からは簡単になります。ある程度は“怖いもの知らず”でやるのがいいのかもしれません。

 

――SNS(TikTok)でバズった動画について教えてください。

▼きょうかさん
100万回再生を超えた動画が6本あります。そのうちデジタルコンテンツに関する動画が3つあります。

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〇PayPayでお年玉を上げた動画
https://www.tiktok.com/@kyokanobaaba/video/7177725694074490113?lang=ja-JP

〇JURENで充電器を借りる動画
https://www.tiktok.com/@kyokanobaaba/video/7183622361898405122?lang=ja-JP

〇外貨を電子マネーに交換する動画
https://www.tiktok.com/@kyokanobaaba/video/7194386153867398401?lang=ja-JP
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動画を作るうえでは“視聴維持率”が重要だと考えます。動画の秒数に対して何秒見られているか、を意識しています。もちろん最後までに視聴したくなるような興味を惹く動画を作るのは、大前提です。その上で、タイトル・キャプションに加え、「いかにコメントがつくか」の観点を大切にしています。皆さんコメントを読む間にバックグラウンドで動画が再生されているので、再生維持率が上がるためです。中身としては、おばあちゃんの“ほっこりする動画”や“癒しを与えられるような動画”も反応が良い気もします。あとは“議論を生むような動画”も再生率は上がると思っています。興味を持ってコメントしてくださる方が多くなるので。

▼ばあば
動画投稿のタイミングも大事だと思いますね。時代に先駆けた動画を公開するのが重要ではないでしょうか。

 

――デジタルデバイドを解消するために、どういった活動を行うべきでしょうか。

▼ばあば
シニア向けのスマホ教室を開きたい、ときょうかと話しています。

▼きょうかさん
まずオンライン上になりますが、YouTubeではスマホ教室のようなテイストで動画制作に注力していきたいと考えています。ただ、それで終わりではなく、オフラインでもしっかりやりたいと思います。ただ、一筋縄ではいかず..。教室をやれる場を模索してはいたのですが、地方自治体さんとは各スマホキャリアさんがタッグを組んで既に教室をやっていたりするんですよね。なので、他のところでサポートできる場を作っていきたいです。教室1回きりで終わりではなく、1回来た人を定期的にサポートすることをまでが大事なのではないかと思います。オンラインでスマホ教室に参加する人は既にある程度デジタルを使える方だと思います。その方たちだけではなく、もっと手前でつまずいている人を救うべきなのではないでしょうか。“きょうかのばあば”のような人たちを増やして、その人たちが呼びかける機会を多く作っていけるといいな、と考えています。

シニアとしても「スマホを簡単に使えるものなら、使いたい」と思っている人も多いと思います。現状「スマホは難しそう/危なそう」など、ネガティブに思っているシニアが多いこと自体が課題です。その想いに対して、若い人がアプローチしても「あなたは若いから使えているだけでしょ」となる方もいると思いますが、“同世代の72歳のおばあちゃんが出来ている”という事実を知ってもらえれば、その方も勇気づけられて、「じゃあ私もやってみようかな」という気持ちになりますよね。

▼ばあば
私よりも年上の80代・90代の方でもスマホを上手に使う方がいらっしゃいます。中には沢山SNSのフォロワーを抱えていらっしゃる方もいる。90代でデジタル使いこなしているのであれば、「私もまだまだ若いからできるんじゃないか」と思いました(笑)それと一緒のことですよね。

先ほどからの繰り返しになりますが、シニアにこそデジタル/スマホの力は必要だと思います。私としては、「技術的に新しいことを得たい!」というよりは、「歳を重ねても、デジタルテクノロジー(スマホ)を扱い続けている」ということを目標にしたいです。最後の最後まで、枕元にスマホ置いておきたいです。それ自体がすごいことだと思うから。この活動を続けながら、出来るだけ長く、デジタルを活用していきたいと思っています。スマホさえあればいつでもどこでも家族とも連絡が取れる素晴らしい時代なのだから。

▼きょうかさん
今後、シニアインフルエンサーコミュニティを作ってみたい気持ちもあります。何人かのシニアインフルエンサーさんには呼びかけていますが、今のところ人集めに苦労しています。というのも、私たちのように「シニアのデジタル化を促進したい!」という同じような思いを持って活動している人も少なくて..。今は難航していますが、今後のためにも直近はフォロワー数を増やして、インフルエンサーとしての存在を大きく示していくことで、「この人とコラボしたい/一緒にやりたい」と思ってもらうのが目標です。

2055年には65歳以上のシニアが人口の39.4%を占めて、超高齢化社会になると言われています。商品やサービスもシニア向けのものが増えるわけで、だからこそシニアに目を向けないのは不自然ですよね。シニア人口が多くなっているのにも関わらず、シニアインフルエンサーはまだまだ少ないので、そのパイオニアを目指したいと思います!

 

――おわりに

取材の途中、ばあばが「私はじゃがいもの皮を5個剥く間に、きょうかは1つしか剥けない。私はスマホを上手に使えないけど、きょうかは上手に使いこなしている。お互いできないことは補完し合えばいい。そんな関係の人たちを増やしていけばいい。」と仰っていました。とても印象的でした。お二人とも終始笑顔でお話しされており、お互いの信頼関係が見てとれました。お二人の絶妙なバランスが、“きょうかのばあば”の動画を見たときに感じる心地良さを生み出しているんだな、と思いました。

“ばあば” にとっての “きょうかさん” のように、シニアの方が気軽にデジタルのことを相談できる【窓口】が増えていくことが重要だな、と改めて感じます。

「デジタルでシニアのデジタル化を促進する」と話すきょうかさん。「シニアにこそデジタル/スマホは必要です」と話すばあば。これからも“きょうかのばあば”に勇気づけられるシニアがどんどん増えていくと感じたインタビューでした。

取材:デジタルわかる化研究所 豊田・吉本・飯野
文:デジタルわかる化研究所 吉本

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