シニアDXは進むのか

2022.01.21 インタビュー

 デジタルデバイド問題を考えた時、まっさきに思いつくのがデジタルデバイドS、高齢者である。

デジタルデバイドS(senior citizen)
デジタルデバイドE(economic reason)
デジタルデバイドH(handicapped person)

 デジタル教育は、義務教育に組み込まれ、将来的には「誰一人取り残さない」ことは推進されていくが、2025年問題に象徴される超高齢化という課題先進国日本において、高齢者のデジタルリテラシーをどうしていくのか。シニア二人がその問題解決の手がかりを探る。

【ゲスト】
田中啓次(たなかひろつぐ)
1956年生まれ。大学卒業後、CBSソニー(現ソニーミュージック)入社。
ソニークリエイティブプロダクツ立上げメンバー。
Jリーグ発足時キャラクタービジネスで大成功を収めたのち、化粧品ビジネスにも参画。
CPコスメティクス社長、プラザ社長等を歴任。
現在は退任し、ブックカフェ経営、発達障害者支援従事。

【インタビュアー】
西村康朗(にしむらやすろう)
1962年生まれ。株式会社分室西村代表。


——1990年代、我々の仕事の中にデジタルが入ってきた記憶があります。気づけば職場の机にパソコンがやってきて。

 ソニーの社長が出井さんになった時、「Digital Dream kids」と言い始めました。意味は理解できたかどうかわかりませんが、「すごい時代が来る」という予感がありました。
 当時、私たちはCDを売るビジネスを一生懸命やっていました。その時に社内で言われていたのが「このCDは終わる。音楽は雨のように降ってくる」ということなのです。今はCDで儲かっているけれど、雨のように降るとはどういうことなのか、よくわかりませんでした。
 気づけば、ワープロがやってきて、ポケベルを持たされて、今考えるとデジタル化への過渡期なのでしょうが、なんとなく「面倒臭いな」と思っていました。

——デジタル嫌いだったのですか。

 好きか嫌いかというかダメでした。ビジネスにおいて、キャラクターとか雑貨とかを扱っていたので、そこに必要なのは人間としての五感ではないかと思っていたので、その対極にあるものがデジタルであると感じていました。

——対極ですか。

 人間の五感があるから、その先に第六感が働くのであって、自分のアンテナを張った情報を見ながら、新しい商品を考えたり、新しい売り方を考えたり、そういうことが好きだったし、それが仕事だと思っていました。

——「考える」ですよね。

 デジタルは「考える」ことを止めているように思うことがあります。検索して、そこから情報を得ることは「調べる」ことなのに、それを「考える」だと思っている人が多いです。「考えます」と言った瞬間に検索を始めている人だらけで、情報収集と思考は違うのにデジタルは、人間の思考力を落としている気がします。
 ソニーだけではなく、ホンダも・・・素晴らしい会社がたくさんありますが、もともとは創業者の「妄想」だったと思うのです。最初から答えがあったのではなく、とてつもない妄想から始まって、それを構想に落として、現実にした。デジタルは現実からスタートする。そこに違いがあると思います。

——人間の妄想力が時代をつくってきた。妄想の対極にあるデジタルが胡散臭く感じさせたのでしょうかね。

 人間から妄想を取ったら、人間じゃなくなり、つまらない世の中になります。

——ありたい未来をも妄想することが今こそ重要だと思いますが、現状分析大好きですよね。「やれることを全部やる」ってダメだと思います。やれなさそうなことを考える、つまり妄想することは忘れてはいけないのだと。

 はい。人間らしく。

——一方で、デジタル嫌いって、無視するわけにはいかないですよね。どうデジタルとつきあっていますか。

 たとえばこのスマホの話をすると、「これを使って何ができるのか」ということと「俺は何がしたいのか」が合致しないのです。そもそも、これを使って何をしたいかがわからない。だから、この機能を調べる気にもならない。

——今、お持ちのスマホにはあんまりアプリは入っていないのですね。

 一応、LINEは入っていますが、「西村さん、LINEやろうよ」なんて言ったことはないですよね。インスタも入っていますが、これは無理矢理入れられたんです。

——SNS、たとえばFacebookとかtwitterとかは。

 全然。

——キャッシュレスはどうですか。タクシーとか現金ですか。

 ドトールポイントカードとかポンタカードとか、利益があると使いますね。

——パソコンは使いますか。

 今の発達障害関係の仕事では、かなり使います。でも「やらされてる感」があります。Zoomを使わないと進まない。

——拒んでいるわけではなく、うまく使っていくことですね。

 しかし、シニアって、ちょっと難しくなると諦めやすい気がします。なにか共通のつまずきポイントがあるのかなと思っています。用語が難しいとか。どんどん機能が増えて、便利になる。でも、人間は選ぶ種類が多くなると選べなくなる。面倒だし。あれもこれもできると言われると、何も選べなくなる。結局、先ほど言った「いったい、俺は何をやりたいんだっけ」という思いになる。そこでつまずいてしまうのではないでしょうか。

——何をやりたいかがないと進まない。

 「いかに機器を使いこなすか」という話になると、もうそこでハードルをつくってしまうように思います。デジタルと「どう付き合うか?」という問いかけが身近に感じるんです。

——デジタル嫌いではない。

 はい。付き合い方を考えると、やりたいことも出てくるし、学びたくなります。目的もなく、デジタルを身につけろと言われてもやらない。胡散臭くて、面倒なものになってしまう。明るい未来に近づけるものとして認識できればいいですね。

——現実は、デジタル化の時代ではなく、オールデジタルの時代ですよね。そのなかでデジタルとの付き合い方はどうあるべきでしょう。

 怖さとどう付き合うか。デジタルは社会のインフラになっていると思うので、付き合いは大事ですが、なんとなく怖いんです。

——怖さ?

 インターネット詐欺やフェイクニュースなどネガティブな要素もあります。スマホを落としたら、とんでもないことが起きそうだし。ECを使えば、いろんな情報を持っていかれている感じ。自分の情報がお金で取引されている。検索すれば、お金をはらった会社の情報が優先されて出てくる。誘導しようとしている。そうなると、信頼のおける会社を見極める必要がありますね。性善説で動きたいのですが。

——デジタルの未来って、どう思いますか。

 AIの発展で、将来の仕事がなくなることがやってくるのでしょうか。

——未来像って、コンピュータと戦って、暗い世の中になっていると描かれることが多いですよね。

 人間って、ずっとバランスを取ってきました。振り子のように行き過ぎると戻る。バランスを取る本能があると思います。デジタルに振りすぎると、アナログを大切にしますから、戻ってくることも出てくるはずです。

——そういえば、キャンプって、すごくアナログですが、流行っていますよね。そんなことも予兆ですかね。

 この前、屋上で秋刀魚を焼いて食ったんですよ。これがうまい。焼いてあるものを買えばいいけれど、自分で焼きたいって思う。本能ですよ。そういう本能が、人間と機械とのバランスを取る。SDGsにも現れていますよね。人間らしさ。機械に支配される日は来ないと思います。

 

<まとめ>
 デジタルにまつわる怖さと面倒臭さがハードルになっているようだが、最大のつまずきポイントは目的が見えないこと。自分のやりたいこととデジタルをどう付き合わせるか。明るい未来が見えて、そこに進んでいく実感があれば、面倒なことも喜びになる。「人間らしく自分の未来を考える機会をつくることから始める」が、つまずきを超える重要なポイントである。

シニアDX特集 - シニア世代の今と未来を考える -