スマホ教室だけではない、シニアDXに必要な鍵とは

2022.01.18 シニアDX特集

 まず初めに、想像してみて欲しい。スマートフォン(以下:スマホ)を利用していないシニアはどの程度いるだろうか?実は、スマホやタブレットを利用していない60歳以上のシニアの推計値は約2,000万人と、60歳以上の全人口において約半数を占める。


出典:内閣府「情報通信機器の利活用に関する世論調査」(令和2年10月調査)
   総務省統計局「人口推計」(2021年7月確定値)を元に計算

 この答えを意外、それとも妥当だと感じただろうか。昨今、行政からリリースされる申請サービスはスマホのアプリ利用が前提になっていたり、ガラケーで広く利用されている3G回線の終了が決定していることを考えると、今のシニア世代はなかなか厳しい立場に立たされている。 
 もちろん政府として何も手を打っていないわけではない。総務省は「デジタル活用支援事業」を採択し、2021年から5年にかけて延べ1,000万人の参加者となるスマホ教室を全国で開催している。これによりスマホを使わないシニア世代の半分にアプローチが出来る計算にはなるが、果たしてこれでシニアDXは順当に進むのだろうか。

 

スマホ教室を開催すれば、それでいいのか

 そもそも、この手の教室は今に始まったことではない。調べたところ、例えば大手通信キャリアのドコモにおいては少なくとも2014年からシニア世代を対象としたスマホ教室が開かれている。
(参考:NTTドコモ/スマホ・ケータイ安全教室をスタート(ICT教室ニュース)
 また、各自治体においても独自でシニア世代向けのスマホ教室が開かれているだけでなく、スマホ教室自体が事業として成立するほどの活気を見せている。スマホ教室の開催が、シニアDXを進める鍵となるのだろうか。

 

“実践の繰り返し“のフェーズにこそ、鍵はある

 スマホ教室についてもう少し触れておくと、基本は店舗や会場で行う対面形式をとっており、講座も単発からテーマ別の講座やレベルに合わせてステップアップしていく、リピート受講想定のものなどがある。最近ではコロナ禍ということもあり、オンライン受講を新たに選択肢として加えるなど、バリエーションは豊富だ。“学ぶ”という意味では、環境が大分整えられたと言えるだろう。しかし、この手のスキルは“学ぶ”だけでは習得できるわけではない。

 突然だが、あなたは自転車に乗れるだろうか。大抵の人が“はい“と答えるだろうが、恐らく最初から乗れた人は稀で、大抵は何度も転び、時には怪我をし、繰り返し練習をしたはずだ。スマホも同様、後天的に、特に大人になってからスキルを習得するためには一定期間の練習が必要である。
 実際にスマホを使うのは日常生活の中であり、そこに講師はいない。使っていくことで新たな疑問も出ることもあるだろう。講座では出てこなかったハプニングも起こるかもしれない。つまり、講座受講後の日常生活における“実践の繰り返し”のフェーズにこそ、シニアDXの鍵があるというのが私の考え方だ。

 

実践の繰り返しをサポートするのは、誰か

 もちろん、スマホ教室では教師に教わりながらスマホの操作をしているため実践をしていないわけではない。後日困った時に見返せるようにと紙のテキストの用意もしており、参加するシニア世代の方は熱心にメモを取る方が多いという。しかし、どんなにその場で熱心に取り組んだとしても、1回程度の練習で習得は難しい。
 また、デジタルは大なり小なり日々アップデートされることを忘れてはいけない。最近はアカウント乗っ取りなどを防止するために「パスワード変更」や「2段階認証」の依頼通知、サービスポリシーの変更や、ログイン通知など様々な連絡が次々と端末に届く。その1つ1つが、デジタルに不慣れなシニアにとってはどう対処して良いかわからず、右往左往する可能性があるのだ。

 

 そんな時、彼らはどうやってそのつまずきを乗り越え、経験値をためていくのか。そこには“家族”の存在がある。


出典:NTTドコモ モバイル社会研究所「ケータイ社会白書」(2021年版)

 ただし、家族のいない独身シニアの存在も忘れてはいけない。生涯未婚率は増加傾向にあり、2020年の調査では男25.7%、女16.4%と過去最高となっている※1。身近なサポーターとして“家族”は当然ありながらも、今後は家族外のサポーターの重要性も増していくことも、シニアDXにおける鍵が何かを考える上では重要だ。
※1:生涯未婚率とは50歳の時点で一度も結婚したことのない人の割合。
   出典:総務省統計局「国勢調査」(令和2年)

 

サポートすることの難しさ

 「人に教えるにはその3倍の知識(理解)がいる」という言葉を聞いたことがある人も多いのではないだろうか。これは、教えるということの大変さを表す言葉だが、今ケースも例外ではない。
 例えば、以前インタビューをした女子部JAPAN小林氏によると「分からないことが、分からない」というシニア世代も少なくないという。
一問一答ではどうにもならないつまずきを、分かりやすく解決していくのは対面でも簡単とは言い難い。また、世代が異なると当たり前だと思っている単語も通じにくいため、伝え方の努力も必要となってくる。

 そして最近では、ここに「遠隔」の条件が加わる。以下グラフは推計にはなるが、世帯主65歳以上の“単独”もしくは“夫婦だけ”の世帯の割合を示している。
・世帯主を子供に変更している可能性もあるため、65歳以上のシニアがいる世帯を母数に割合を出す場合はもう少し率は下がる
・単独には独身も含まれる
以上のことから、グラフは大枠の傾向を把握するに留まるものの、家族がいたとしても一緒に暮らしていないシニア世代は多いと考えられる。


出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2018年推計)

シニアDXの鍵は、サポート環境を整えること

 ここまで、シニア世代がスマホスキルを習得するためには「実践の繰り返し」と「家族や身近な人のサポート」が必要であること。また、それを阻むものに「サポートすることの難しさ」があると言及してきた。そして、ここから見えてきたことは「サポート環境を整える」必要性であり、これこそがシニアDX推進における鍵ではないだろうか。そのうえで、私はサポート環境を整えるためには、2つのポイントがあると考えている。

1.サポーターに対する負荷削減
 例えば、サポーターに対する負荷削減においては「教え方の伝授」も1つあるだろう。スマホ初心者からのよくある質問集と、その対応方法が各家庭に配布されるだけでも気の持ちようが変わるかもしれない。また「簡単にサポートできる仕組み」も大事だ。昨年10月に当研究所で発表したLINE用の「動く!スマホ操作の説明スタンプ」も、この考え方からきている。総務省も「デジタル活用支援」ページにて、標準教材・動画が用意しており、シニアDXを家庭内で進める際に役に立ちそうだ。
 とはいえ、行政は個々のニーズにまで対応することが出来ないため、限界はある。実は、この領域に民間企業が入る余地と可能性があると私は考えているが、この話はまた今後にしよう。

2.サポートコミュニティの育成
 これは、相互扶助の考え方である。当事者であるシニアの周りのコミュニティがサポーターになることで、家族に頼れない方に対するフォローや遠隔支援の問題自体の解消が見込める。こちらも政府が「デジタル支援員」制度として実証実験を始めており、その支援員の対象は携帯電話販売店の従業員からシルバー人材センターの登録者までと幅広い。渋谷区においては、18歳以上の在住・在勤・在学であれば立候補できる。
参考:シブカツ!「デジタル活用支援員とは?」

 様々な場所で開催されているスマホ教室は、スマホ活用のスキル習得に対するはじめの一歩としては有効な手段であることは間違いない。
しかし、それだけでシニアDXは進まない。スマホを活用し始めようとしたシニアが途中で挫折しないようなサポートを、みんなで作っていこうではないか。

 

デジタルわかる化研究所 渡辺澪

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