プロから学ぶ!不慣れなシニアでも分かりやすい、スマホの教え方

2021.10.11 インタビュー

 

教える時に気を付けたい、5つのポイント

 ここからは「実際に教える時にどうしたらいいの?」の疑問にお答えしていく。
小林氏には教える際のスタンスから細かなテクニック的な話まで、多岐に渡ってアドバイスをいただいたが、今回はその中でも特に筆者が皆さんにお伝えしたいことを5つに絞ってご紹介する。

①「さっき言ったよね」は禁句
 この言葉、身内であればあるほど、つい言ってしまいたくならないだろうか?しかし、私たちにとっての当たり前は、シニア世代にとっては当たり前ではない。そのため、1回で理解するのは難しいことを前提に教える必要がある。
「さっき言ったよね」は、言われた相手にも質問しづらい環境を作り出してしまい、本来の“デジタルを使いこなす”という目標からも遠ざかってしまう。まさに、悪循環を生み出す言葉なのだ。

②出来ないことには“代案”を用意
 “パスワードが多すぎる”と感じることはないだろうか。とはいえ、慣れている私たちはある程度頭の中でパスワードの管理が出来てしまっているが、先述のように“パスワード”自体に不慣れなシニアの方はそうはいかない。
 そこで、「なぜ覚えられないのか?」と問い詰めたり、「とにかくやってもらうしかない」と自分たちのやり方を押し付けるのはご法度だ。この場合なら、パスワード管理用のメモを作ることを提案するなど、出来ないことを否定するのではなく、その人にとってスマホが使いやすくなる方法を一緒に模索・提示してほしい。“否定“は嫌いへの第一歩だ。

③「絶対やった方が良い」は心の中だけで
 なかには「パスコードロックをかけたくない」「LINEはやりたくない」という人もいるだろう。
あなたからすればやらない理由が分からないかもしれない。客観的にみても、やるべきで便利なこともあるだろう。
 しかし、そこで“べき論“の展開はNGだ。本人なりの理由が必ずある。その理由を聞いた上で、メリット・デメリットを伝えて選択は本人に委ねよう。“強制”も嫌いへの第一歩だ。

④目的達成の方法は1つだけに絞る
 「写真をメールで送る」ことは、シニアの方がスマホを持ってやりたいことの1つだ。その目的を達成するためには「メールアプリを開いて写真を添付して送る」「写真フォルダから送りたい写真を選択して送る」など様々な方法がある。様々な方法があることや、便利な+α情報はつい教えたくなってしまうが、それは厳禁だ。「1つの作業で、1つの手段」を徹底しないと、教わる側は情報量がオーバーし混乱してしまう。一度決めたら同じ方法で、伝え続けよう。

⑤音声入力を活用
 冒頭、スマホ初心者は「文字入力」が苦手な傾向にあるとお伝えした。もちろん文字入力を練習するのは悪くない。しかし、ツールとは本来その人によって使いやすい“手段“であることが大前提にある。無理に文字入力をせず、音声入力でツールを使いこなしても良いではないか。

 

「分からないことが、分からない」の真意は「何が出来るかが、分からない」

 今更だと思われるかもしれないが、“教える”行為の中でも、特に相手との当たり前が異なる場合、「相手が本当に分からないこと、知りたいことは何か?」を把握することの重要性を、改めてここで強調しておきたい。女子部JAPANでも、事前のアンケートで受講者の声を拾い、プログラムを作っている。そして、当日の授業でそこに触れることも忘れない。
 とはいえ、「分からないことが、分からない」という人も少なくない。こうなると、教える側としても、何をどこから教えていいのか分からなくなってしまうのではないだろうか。
 そんな時には、まずは基本の「電話」「メール」「地図」、少し余裕があれば「カメラ」「LINE」「乗換案内」の使い方を教えてみて欲しい、と小林氏は言う。
「“分からないことが、分からない”というのは“(スマホで)何が出来るかが、分からない”ことだと私は考えています。だから基本から改めて伝えてみる。すると頭の中が整理されて、どこが分からなかったのか?が見えてくることもあるんです」。

 

読み返す」ことは得意でも「調べる」ことは苦手

 さらに小林氏によると、スマホに不慣れなシニアの方は「読み返す」ことは得意でも、「調べる」ことは苦手な傾向にあると言う。女子部JAPANでは、専門用語を極力使わず、動作を丁寧に解説した紙の教科書を作っている。その結果、単なる取扱説明書とは異なる“生きたバイブル本“として、教室終了後のシニアのスマホ生活を支えるものとなっているのだ。
 「スマホの分からないことは都度検索して調べればいいのでは?」と思ってしまうが、そもそもスマホで検索するということが少なく、慣れていないということに加え、スマホで躓いていることをスマホで調べる行為は、複数アプリを跨ぎながら作業することとなり、ハードルが高いのだ。そのため、シニア世代が慣れ親しんでいる“紙”でテキストを用意することは非常に重要なこととなる。

 

シニアのスマホ初心者の躓きは、当たり前の”手前”にある

 これから自分の(祖)父母にスマホについて教えることも増えるだろう。その時に「なんで、“こんなこと”も分からないのか?」と思わないでほしい。決してあなたの(祖)父母は遅れているわけでも、飛び抜けてデジタルに弱いわけでもない。スマホに不慣れなシニアの方の多くが躓くポイントは、私たちの“当たり前”の手前にあるのだ。当たり前の世界が違うのだと、まずはそこを念頭に置きながら、スマホを教えてみてはいかがだろうか。

 

教える人を増やしていかないと、教われる人も増えない

 今回のインタビューは、「デジタルの日」賛同企画「#デジタルを贈る人を支える」の主旨をお伝えした際に、共感頂いたところから始まっている。「デジタルデバイドの解消は当たり前という空気もある中、“教える側”のことも気遣ってくれるのは嬉しい」と小林氏は話す。
 「出来る人にとってスマホは“簡単なこと”のため、教えることの難しさが伝わりにくいんです。皆さん、同世代に教えるのは特に苦労しませんよね?けれど、世代が違えば”当たり前”も違います。だから、プログラムもその世代に合った内容・言葉で作る必要がある。でも、意外と世の中の皆さんは“当たり前が違う”ということを分かっていないんですよね。『なぜ、そこまでして?』と思うこともありますが、そんな時に、このサイトの81歳で起業した牧さんの記事で『シニアの身近でサポートをするデジタル支援員を増やすことが急務だ』と仰っていたことに共感したんです。支援する人が増えないと状況は変わらないなって。こういったことを発信してくれることは、とても良いことだと思います」

 女子部JAPANは今後、“教える”側の育成にも取り組んでいくそうだ。「スマホ教室はハードルが高い、大変」と言いつつも「教える人も増やしていかないと、教われる人も増えないと思うので」と話す小林氏に、改めて「教える側」へのアプローチの重要性を感じたのであった。

 

デジタルわかる化研究所 渡辺澪

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