「スマホ教室」は、高齢者のデジタルデバイドを解消できるのか?

2021.09.11 インタビュー

 世の中のデジタル化にとって必要不可欠なデジタルツールといえば、パソコンとスマートフォン。その中でも日常的に活用ができて、人との交流や様々なサービスを手軽に受けることが出来るスマートフォンが最も重要なツールであることは言うまでもありません。物心ついた時からスマホがある世代にとっては直感的に使いこなすことができますが、高齢者の方にとっては用語も使い方も難解で、すぐには使いこなすことが出来ないのが実状です。これから先スマートフォンを使えない人は、様々なサービスを受けることが出来ず、親しい人との交流にも支障が出るといった問題を抱えています。

 その問題を解決する施策として「スマホ教室」が様々な展開を拡げています。今回は国内キャリア最大手のNTTドコモに取材をさせて頂きました。NTTドコモの「スマホ教室」の全体運営を行っている営業本部 チャネルビジネス部ブランドショップ担当課長の藤井政樹様と同主査の岸原啓文様、そして実際にスマホ教室で講師を務められているdgarden五反田店(ドコモショップ)の林様にもお話を伺いました

聞き手:デジタルわかる化研究所 安藤亮司
取材実施日:2021年7月1日ならびに7月6日

 

――NTTドコモの「スマホ教室」の概要を教えていただけますか。

(岸原様)NTTドコモはドコモショップを“地域のICTサポート拠点”として位置付けており、そのICTリテラシーの向上の一役を担ってるのがスマホ教室といえます。『便利で、楽しく、豊かに』をテーマに主に60代から90代の方々が受講しています。初めてスマホを触る高齢者の方々が日常的にデジタルを使えるようになることを目指し、「使いこなせない人をゼロにしたい」という思いで運営しております。ドコモ以外のキャリアや格安SIMを使われている方でも受講可能です。
 体験編~入門編~基本編~応用編~活用編とレベルに応じたコースを用意しており、体験編から基本編では、文字入力の方法、電話帳の使い方、メールの送り方、インターネット検索、写真の撮り方などの基本的な機能を学び、応用編からは、アプリのインストール方法、動画の楽しみ方、ラジオや音楽の楽しみ方、キャッシュレス機能の活用法といったより幅広いスマホの楽しみ方を学んで頂けるようになっております。

――NTTドコモのスマホ教室」の特徴を教えてください。

(岸原様)アンケートによりますと受講者の90%の方に満足を頂いており、そのうち講師に関する評価が最も高く50%の方に高評価をいただいております。講師についてはインストラクションスキルを高めるために研修制度を開始しており、Web動画研修やオンライン研修などを充実させ、この7月からは資格制度も導入しております。ただ単に丁寧に教えるだけではなく“再現性”を重要視しており、ご自宅に帰ってからも自分で使えるように、あえてマンツーマンではなく複数での講義にしているのも特徴ですね。
 次いでテキストについて評価をして頂ける方が30%ほどいらっしゃいます。他のスマホ教室と比べてテキストや専用教材を充実させており、受講履歴もスタンプラリーにして、学校に通っているような楽しさを味わって頂いております。

 

 また最近では人気アプリを学べる講座も開設しております。具体的には「LINE」「Facebook」「Twitter」「Instagram」「YouTube」「ウエザーニュース」「ジョルダン乗換案内」「メルカリ」など生活を豊かにする話題のアプリの楽しみ方を学ぶことが出来ます。

 ここで、実際にNTTドコモのスマホ教室で講師を務めている「dgarden五反田店(ドコモショップ)」の林さんの取材を紹介させて頂きます。

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(林さんプロフィール)

林 美由紀様/dgarden五反田店 スマートフォン教室専任講師。
ホームヘルパー2級、保育士資格(実働2年)・幼稚園教諭2種 の資格を保有。全国でも上位1割に入るインストラクションスキルの持ち主。人にものを教えるのがとても好きで、苦労は多いがやりがいの多い仕事と感じている。

―――「dgarden五反田店」のスマホ教室の受講者の特徴を教えてください。

(林様)初めてスマホを購入する方が多く、70代の方が多いですね、中には90代の方もいます。「時代に乗り遅れないようにスマホを使いこなしたい」という意欲的な方も通われています。あとは周りに教えてくれる人(家族など)がいない方も多いですね。
 まずは入門編から入って基本的なスマホの使い方を学んでいただきます。最初は怖がってうまく触れませんがすぐに慣れて、そこから興味のある分野に進んで頂くパターンが多いです。男女別では女性の方が多い傾向でしたが、ここ最近は男性も増えてきています。

――講義をしていく上での苦労はどんなことがありますか?

(林様)やはり専門用語の意味を理解してもらうのが一番大変です。特に理解しづらい言葉としては、「Wi-Fi」「パケット通信」「ギガ」「アカウント」「クラウド」「アップデート」「ID」などがあります。言葉の意味が全くつながらないため理解できないのだと思います。そんな時は別の言葉で言い換えて説明するように心掛けています。
講義を進めていくと、うまく使えずにスマホが嫌いになってしまう場合もあります。そんな時は、スマホの全ての機能を使いこなす必要はないと話しています。最近ではメンバー同士が仲良くなって、お互いに励まし合ったりする姿も見られます。

――受講される方はどのような動機で申込まれるのでしょうか?

(林様)やはり、スマホは買いたいけれど自分に使えるか不安な方、が中心になります。それからスマホで写真を撮ってみたいという人も多いですね。次いで地図を使いたいとか、インターネットを使いたいとか、様々な動機の方が多いですね。
 また、家族の方に薦められてくる方も多くいらっしゃいます。具体的には普段の連絡手段がメールだけでは心配なので(既読がつかないため)、スマホにしてLINEを使って欲しいと言われて申込パターンも多いですね。

――受講者の方はスマホに何を求めていると感じますか?

(林様)“人とつながる”という事でしょうね。何かあった時に誰かとつながる方法を持っておきたい、家族からLINEを使えるようになって欲しいと言われてスマホを買った人も、家族とコミュニケーションが取れる安心感を持ちたい。普段周囲の皆は忙しくて連絡を取りづらい、でもスマホにすれば交流する機会が増えるのではないか、と期待している人がとても多いと感じます。そういう“人とつながっていたい”という思いが強い人ほどスマホ技術の習熟も早い傾向にあると思います。中には自分で写真を撮ってメールに添付して家族に送れるようになった方もいて、周囲の人をとても驚かせたという例もあります。どんな年代でも同じかもしれませんが、やはり「何かをしたい」という意欲はとても大切なのだと思います。

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(再びチャネルビジネス部へのインタビュー)

――これからの「スマホ教室」に関する課題はありますか?

(藤井様)いま参加している方はスマートフォンの活用に意欲的な方に限られています。当社の掲げている「使いこなせない人をゼロにしたい」といった観点からは、まだ一部のシニアに留まっているのが現実で、今後解決しなければならない課題ですね。7月からはオンライン診療の活用支援などへの取り組みも開始しています。このように単なるスマホの使い方講座だけではなく、講座の内容・テーマを工夫していくことで、参加する方々を拡げていかなければならないと考えます。

――今後の展望を聞かせてください

(藤井様)受講者が増えてくれるのは喜ばしいことですが、人件費も含めて相当な投資額になっているのも事実です。携帯キャリアとしての義務、社会的課題の解決という意義でここまで進んできていますが、無尽蔵に投資を続けるのにも限界があります。これまでの累計参加者1000万人のアセットを活用して、そのアセットに参画してくれる方々との連携が必要だと思いますね。「メルカリ」などのように、費用を頂いて特定のアプリの利用者拡大に貢献するという取り組みもその第一歩といえます。受講者の課題、参画する企業の課題、当社の課題それぞれを解決する三方良し、の関係を増やしていきたいと考えています。総務省のデジタル活用支援事業にも参画してマイナンバーカードなどの取得促進にも協力しています。行政、民間企業と連携しながら、全ての方々がスマートフォンで便利で、楽しく、豊かな生活を送ってもらえるようにしていきたいですね。

営業本部 チャネルビジネス部
ブランドショップ担当課長 藤井政樹様

営業本部 チャネルビジネス部
ブランドショップ担当主査 岸原啓文様

◆まとめ
 冒頭にも述べましたが、デジタル化の加速にスマホの活用は欠かせません。高齢者がスマホを使えるようになるために「スマホ教室」は重要な存在であり、より充実していくことを期待したいですね。ただし、キャリア単体での活動には限界があり、民間の企業や、自治体などの公共との連携がとても重要であると感じます。
 またデジタル庁の掲げる「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を達成するためには「デジタルに対してポジティブで意欲のある人」に教えるだけでは不十分といえます。デジタルを(スマホを)必要ないと遠ざける“デジタル拒絶層”を動かさなければ真にこの社会課題の解決にはなりません。高齢者をはじめとする“デジタル拒絶層”には様々な考え方が存在すると思われます。それぞれの方々の拒絶する理由を見つめ、見極め、その拒絶感を取り除いていくことが最も大きな課題といえそうです。

デジタルわかる化研究所 安藤亮司

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