デジタル進化についていけない、と感じるのはナゼ?
フリーアンサーから見えてくる3つの傾向。

2021.06.11 リサーチ

“(デジタルについて)一つわからないと連鎖して分からないことが付きまとい、よりいっそう困難になる”
“(デジタルについて)カタカナやアルファベットの言葉は聞くたびに意味がわからず、一つ一つ調べないといけない。時間がかかりついていけない“
“(デジタルの)新しいことを覚えたと思えばすでにアップデートされている”

これは先日行った調査で、「『デジタル化が進むこと』に対して、ついていけないと感じることがあるか?なぜそう思うのか?」という設問から得た自由回答の一部です。色々な感想があると思いますが、画面の前で思わず頷いてしまった人もいるのではないでしょうか。
 今回は、先日行った調査項目の中でも“デジタル進化に対する感じ方“について考察を深めていきたいと思います。

【前回の調査コラム】デジタルスキルの差はどこで生まれるのか? 調査データから読み解くひとつの可能性。

 

デジタル化についていけない、と感じるのは珍しいことではない

 まずは、全体の結果をご覧ください。

 全体では「感じる計」が約5割となっています。「感じない計」が約2割であることを考慮すると、「ついていけないと感じない」と言い切れる人はそこまで多くないことが読み取れる結果です。
 また、年齢が高まるにつれ「感じる計」の値が高まっており、このあたりは皆さん予想の範囲内といったところでしょうか。

 さらに、デジタルスキルがあると自負する人に限っても「ついていける」と考える人は全体で4割ほどに留まっており、多くの人がこの時代、「デジタル進化にはついていけない」という感情を多少なりとも抱いていると言えそうです。

 なぜ、そう思うのか?ここからは 「デジタル進化ついていけないと“感じる”」と回答した人の、その理由に関する自由回答をテキストマイニングにかけ、傾向の大枠を掴んでいきます。

共起ネットワーク:
単語が共通に出現する関係(共起関係)を円と線で表示した図のこと。
単語の円が大きいほど出現数が多い。また、線が太いほど一緒に出てくる割合が高く、結びつきも強い。

 

傾向1:デジタルの進む速度がはやすぎて、ついていけない

 

 

 まずここで注目したいのは「変化・進化・進歩―はやいーデジタル(化)―不安」の共起関係です。特に「変化・進化・進歩―はやい」の結びつきが強く、状況が変わっていくスピードについていけないと感じる人が多いことが分かります。共起の線は繋がっていませんが、「変わるー戸惑うー慣れる」も“変化”に関連した共起ネットワークが形成されているため、両者は同じ傾向群として分類しました。

 

傾向2:電子機器やサービス(アプリ)の理解習得コストがかかりすぎて、ついていけない

 ここでは、電子機器やアプリ・サービスの使いこなす上で関連する単語が並びました。操作方法や使い方の難しさ、理解するまでにかかるコスト(時間・労力共に)から“ついていけない”と感じている傾向が図全体から読み取れます。

 

傾向3:分からない言葉(=横文字)が多くて、ついていけない

 

 

 今回、自由回答の中で最多の頻出が「分からない・知らない」、次いで「言葉」という単語です。この2つは共起度合いも強く、多くの人にとって「ついていけない」理由になっています。
 なお、線こそ繋がっていないものの、周辺にあるいくつかの共起ネットワークは“言葉が分からない”からこそ生まれる事象や要望と捉え、同じ傾向群に入れました。

 また、「分からない・知らない」を起点に共起される単語を見ると、様々な単語が複数の共起線を伴いながら広がっていますが、そこから「横文字」が分からない言葉を作っている可能性を見出せます。

 この可能性をもう少し強固なものにするため、定量データも見てみます。下図は文化庁が実施した調査における設問のうちの1つ「外来語や外国語などのカタカナ語の意味が分からずに困ることがあるか」という問いに対しての年代別の結果です。

平成24年度「国語に関する世論調査」(文化庁)はこちら
平成29年度「国語に関する世論調査」(文化庁)はこちら

 頻度の差はありますが、多くの人が横文字に対して困る経験を持ち、特に高齢者になるとその頻度が高まっていることが分かります。
 また、平成24年度と平成29年度の結果を比べてみると、困ることがある割合が増加傾向にあり、特に10代(16-19歳)に関しては「ある計」が前回調査比+14ptと大幅にアップ、今や横文字で苦戦するのに年齢は関係がないことが分かります。

 

言葉を推測してしまう“癖”が、デジタルの分からない、を生み出していく

 以下は横文字に関する認知率及び理解率を出した文化庁のデータです。

カタカナ語の認知度・理解度ランキング

平成14年度「国語に関する世論調査」(文化庁)はこちら

 19年前と古いデータにはなるのですが、今でも理解に少し不安、または聞いたことのない単語はないでしょうか。実は、私自身も恥ずかしながら“理解”と言われると怪しい単語があります。ビジネス情報メディアでは頻出する単語でありながら、面と向かって理解しているかと言われると怪しい。最近では海外で着想された考え方が日本に入ってくる流れもあり、19年前以上に横文字は増えていると言えるでしょう。

 私たちは普段、文章の中に分からない単語が1つあっても、その前後の文脈で単語の意味を推測して“なんとなく”理解することがあります。この“なんとなく”の理解が積み重なると、いつの間にか分からない単語だらけで文章が構成されるようになり、気づくと文章全体の理解ができなくなってしまう。デジタルの世界では、まさに今この現象が起きているのではないでしょうか。新しい単語の1つ1つを丁寧に理解する作業をしてこなかった小さな行為の積み重ねが、デジタルの分からない状況を生み出しているという仮説です。

 もちろん、読み手だけが原因ではありません。伝え手の工夫として、そもそも横文字を使わないという選択肢もあったはずです。しかし、そこには翻訳のジレンマを垣間見ることができます。
 例えばデジタルと異なりますが、新型コロナウイルス感染症に関するニュースでは政府関係者や専門家会議から、聞き慣れない横文字が飛び出してきます。あえて政府がそのまま使用した背景には「日本語で正確に言い換える言葉が見つからないため」ということがあるそうです。

参考:産経新聞「コロナ禍で飛び交うカタカナ用語 「分かりにくい」の声 感染リスク高まりに貢献も」2021/4/23付記事

 それだけでなく、「横文字を使うとなんとなく“雰囲気が出る”“文字面のおさまりが良い”」といった相手に与えたい印象のために使っていることはないでしょうか。伝え手もなんとなく、受け手もなんとなく、では正確に理解できるはずがありません。横文字活用の是非はデジタルの“わからない”を解消していく上で、慎重に考えていく必要があります。

 

「ついていけない」という気持ちにある根本の理由は、一体何なのか?

 今回のテキストマイニングから浮かび上がってきた共起ネットワークは、取り上げていないものも含め、それぞれが全く別の種類の傾向ではなく、実は見えない相関関係にあると考えています。その上で、「(横文字の)言葉が分からない」というのは「ついていけない」と感じる理由の根本を成しているというのが私の仮説です。

 当たり前ですが、私たち人間は“言葉”を通じて学習し、理解を深めています。その根本が崩れてしまうとなると、全ての事象に影響が出るのは当然のことですよね。そんな根本の崩壊が今デジタルを取り巻く世界では起きており、それに対する有効手段を確立できていない。この簡単なようで最も難しい“言葉“の問題に、当研究所では立ち向かっていきたいと考えています。

 最後に。
当研究所ではデジタルデバイド(情報格差)の実態研究を行っています。興味を持たれた企業様や団体様がいらっしゃいましたら、ぜひ以下「問い合わせ」よりご連絡ください。

問い合わせ

 また、こんなことを調べて欲しいというリクエストも募集しております。
上記問い合わせ、または各種SNSのコメントやダイレクトメッセージよりお気軽にお声がけください。

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デジタルわかる化研究所 研究員 渡辺澪

 

<調査概要>

調査名 デジタルデバイド(情報格差)実態把握調査
調査期間 2021年2月11日(木)~ 2021年2月14日(日)
調査方法インターネット調査
調査対象 全国の男女15歳-79歳 ※中学生を除外
サンプル数n=3024
ウエイトバックエリア性年代構成比を、2015年国勢調査の人口構成比に合わせて集計
備考 小数点第2位で四捨五入している為、計算上合わないことがあります

 

 

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