デジタルスキルの差はどこで生まれるのか?
調査データから読み解くひとつの可能性。

2021.03.17 リサーチ

はじめまして。

このリサーチコラムではデジタルデバイド(情報格差)について、調査データを様々な角度から見つめることで、格差の解消に向けた糸口を見つけていきます。

初回のテーマは「デジタルスキル」についてです。

改めてですが、当研究所ではデジタルデバイド(情報格差)を「個人間でのインターネットや通信技術活用に関わる機会と能力における格差」と定義しています。

今回はその中でも、デジタルを使いこなす”能力“にあたる部分について、考えていきたいと思います。

 

あまり知られていない「デジタルデバイド(情報格差)」。

本題に入る前に、まず基礎情報として「デジタルデバイド=情報格差」という言葉は、どの程度世間に認知されているのか、見ていきます。

言葉の認知状況 

日本の情報通信の現況、及び情報通信の政策の動向について総務省が毎年まとめている「情報通信白書」にデジタルデバイドが登場したのが2000年頃、それから約20年経つわけですが、まだまだ言葉の意味を含めて浸透するには時間がかかりそうな数値です。
更に、言葉ごとにデータを見てみると「情報格差」の認知が高いことが分かりました。
Googleの検索結果数を見ても「情報格差」の方が情報量の多いことから、言葉として浸透している度合いが高いことが頷けます。
【デジタルデバイド:約239,000件/情報格差:約34,000,000件】 ※2021年3月執筆時点

さて、本題に戻します。
改めて、「デジタルスキル」と言われて皆さんはどんなことを想像するでしょうか?

・・・人によってイメージが変わるのではないかと思います。
まず、デジタルスキル自体を分類すると、大きく「ビジネス」と「日常生活」に分けることができると考えます。
更に、ビジネスにおけるデジタルスキルを考えると、業種によって必要なスキルは変わってきます。
例えば、私のようにコラムを執筆する人間にとってMicrosoft Office※1の活用は必要スキルですが、業種によっては必要がない可能性もありますよね。
また、日常生活を送る中でMicrosoft Officeの活用が必須スキルかと問われると、なくても問題ないというのが一般的ではないでしょうか。
※1 Microsoft Office:マイクロソフト社が提供するビジネス用アプリケーションソフトのこと

当研究所では上記理由から、「ビジネス」「日常生活」それぞれで必要なデジタルスキルは別物であると定義し、まずは日本国民の傾向をざっくり把握するため、“日常生活におけるデジタルスキル”と範囲を限定し調査を実施しました。
今コラムから数回に分けて、その結果について考察していきたいと思います。

 

日常生活におけるデジタルスキルの“定義”とは。

デジタルスキルの習得度合いを図るうえで、当研究所ではデジタルスキルを4項目に分けて調査をしています。
これら4項目全てが問題なく出来て、はじめて日常生活におけるデジタルスキルがあるという状態です。

① デジタル端末(スマートフォン・パソコンなど)を活用すること
② インターネット上で知りたい情報を取得すること
③ 取得した情報が適切なのか判断すること
④ 情報を有効に活用すること

一連の行動を例にしてこのスキルをもう少し想像してみます。
スマートフォンのアプリケーションやブラウザを利用し・・・①
複数の商品(サービス)情報、クチコミや割引情報を取得し・・・②
どれが自分の希望条件に合うものなのか?取得した情報に嘘や、やらせがないか?を判断し・・・③
最もお得に購入できる方法で購入(契約)をする・・・④

もしかすると、ここを読んでいる皆さんにとっては当たり前に思える行動かもしれませんが、これが日常生活におけるデジタルスキルであると当研究所では定義しています。

では、結果を見ていきましょう。

 

年齢に関係なく、約7割が「不安、もしくはできないことがある」項目が1つ以上あると回答。

デジタルスキルの習得度合い

皆さんの予想と結果、いかがでしたでしょうか。
「1項目以上不安、もしくはできないことがある」と回答する人が思ったより多いなと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

年代別で見てみます。

デジタルスキルの習得度合い

全体の71.2%に対して大きく差が出る年代はなく、一番乖離が激しそうな10代と70代を比べても約12ポイントの差に留まりました。
このことから、デジタルスキルの習得度合いに年代はあまり関係のないことが分かります。

 

全年代を通してハードルになっているデジタルスキルは「取得した情報の取捨選択」
70代でもインターネットにおける情報取得スキルはあるという結果に。

デジタルスキルの習得度合い

デジタルスキルの項目ごとに少し細かく見てみます。
どの年代においても「取得した情報が適切なのか判断すること」を不安なくできると回答した人は他の項目に比べて低いことが分かります。
特に10代は他3項目において、他の年代とスコアを離しているのに対し、「取得した情報が適切なのか判断すること」は他年代と同程度のスコアになっている点に注目です。
情報過多の時代と言われて久しいですが、フェイクニュースも多い今、全体的にはデジタル端末の操作や、情報を取得ができるか否かよりも“取得した情報を判断できるか否か”が、デジタルデバイド(情報格差)の分かれ道になっているのかもしれませんね。
一方で、全体的にデジタルに弱いとまとめられがちな高齢者であっても、例えば「インターネット上で知りたい情報を取得すること」の項目においては、70代が最低スコアではないことも見逃せません。
ただし、今回は「インターネット調査」の影響を考慮する必要があるため、総務省が出している「令和元年通信利用動向調査」と70代の主要な利用端末状況を見比べてみましょう。

最もよく利用する通信機器

携帯電話の利用が一般的に比べると低く、パソコンの利用が圧倒的に高い結果となりました。
つまり、今調査における70代の母集団はデジタル端末にある程度慣れている層だと考えられます。
上記から「高齢者であっても端末の活用さえできてしまえば、他の世代と遜色ないデジタルスキルを持てる」という仮説を持つことが出来ます。

 

デジタルスキルは意欲や環境に左右される?

最後に、先述したデジタルスキルの4項目の習得度合いに対して、調査対象者の属性別に見ていきましょう。

デジタルスキルの習得度合い

年収及び、デジタルに関する情報の取得意向が高まるにつれて、「4項目全て問題なくできる」の割合が増えていくことが分かります。
特に、世帯年収が800万以上となると「4項目全て問題なくできる」と答えた人が、全体平均の28.8%を10ポイント以上の差をつけて上回る結果となりました。
一世帯における所得の中央値が437万円※3であることを考慮すると、ある一定の所得のボーダーラインがデジタルスキルに影響を与えるのかもしれません。
※3 厚生労働省「国民生活基礎調査2019年」より

また、就労別でみてもデジタルスキルの習得度合いが変わりました。
比較的社会との繋がりが多いと考えられる有職・学生が同等の結果に対し、無職の「4項目全て問題なくできる」の割合が下がっています。

これらのことから、デジタルに関する向き合い方や、所得や就労など自身が身を置く環境によって、デジタルデバイド(情報格差)が起きる原因になるという可能性を導き出すことができます。

いかがでしたでしょうか。
当研究所では今回の調査データを起点とし、引き続きデジタルデバイド(情報格差)の実態研究を行ってまいります。
興味を持たれた企業様や団体様がいらっしゃいましたら、ぜひ以下「問い合わせ」よりご連絡ください。

また、こんなことを調べて欲しいというリクエストも募集しております。
お問い合わせ、または各種SNSのコメントやダイレクトメッセージよりお気軽にお声がけください。

デジタルわかる化研究所 研究員 渡辺澪

<調査概要>
調査名:デジタルデバイド(情報格差)実態把握調査
調査期間:2021年2月11日(木)~ 2021年2月14日(日)
調査方法 :インターネット調査
調査対象:全国の男女15歳-79歳 ※中学生を除外
サンプル数:n=3024
ウエイトバック:エリア性年代構成比を、2015年国勢調査の人口構成比に合わせて集計

<本コラム記載のグラフについて>
小数点第2位で四捨五入している為、計算上合わないことがあります。

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