【埼玉県久喜市 梅田市長インタビュー】
【連載】「オール久喜(くき)」で推進する。
“誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化”(前編)
前編:加速する行政のデジタル化の流れに対応していくために
久喜市は、2010年に(旧)久喜市、菖蒲町、栗橋町、鷲宮町の1市3町が合併して誕生した、埼玉県の北東部に位置する人口約15万人、6.7万世帯の市。面積82.4平方キロメートル、市域は東西約15.6キロメートル、南北約13.2キロメートルで、都心まで約50kmの距離に位置している。東京都内の会社に勤めているサラリーマンのベッドタウンとして栄え、人気アニメ『らき☆すた』の主な舞台とされる市内鷲宮神社をファンが訪れる「聖地巡礼」現象が見られる。近年は、高速道路網の利便性を活かし、物流系企業の誘致に力を入れ成果を挙げている。
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大で埼玉県内の小中学校が臨時休校となる中、久喜市は在宅のまま受けられる双方向のオンライン授業に、最も早く取り組むことができた自治体としてもクローズアップされた。そんな市の「未来を見据えたまちづくり」「若い世代を呼び込める魅力のあるまちづくり」を掲げ、2018年の市長就任以来、積極的にデジタルを活用しながら街の魅力を情報発信し、デジタル化を推進しているのが梅田修一市長である。今回のインタビューでは、久喜市のデジタル化とそこで見えた課題、コロナ禍でいち早く可能としたオンライン授業の取り組み、そしてデジタルデバイドに対する意識や取り組みなどについて聞いた。
梅田修一市長プロフィール
久喜市議会議員を経て、2018年市長就任。公約は「まちのつくり方改革」。1974年04月23日久喜市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業。奥様と男の子2人、4人家族の良きパパでもある。趣味はマラソン、スポーツ観戦、ラーメン・蕎麦食べ歩き。
聞き手…デジタルわかる化研究所 岸本暢之、豊田哲也
インタビュー撮影…デジタルわかる化研究所 長内隆之
インタビュー実施日…2021年4月16日
(写真は久喜市役所=久喜市下早見)
積極的なデジタル化によって、久喜市をもっと良くしたい。
——梅田市長になってから、市のデジタル活用の取り組みが増えてきた印象があります。ネットニュースなどでもよく関連の報道を見るようになった気がしますが、久喜市における情報化、デジタル化の取り組みについて、割と積極的に取り組まれている陰にはどのようなお考えをお持ちでしょうか。
(梅田市長) 我々の取り組みに関心を持っていただきありがとうございます。元々私は市議会議員の出身でもありまして、市長に就任する前から久喜市に対する課題というものをいくつも持っていました。その中でも特に、「久喜市の良さ、魅力を市民や外に向けて伝えきれていない」「市民サービスのデジタル化が遅れている」「職員の残業が多い」という問題に関してはICTを積極的に活用すれば解決できるのでは?と思っていたところでした。
そんな中、久喜ブランド推進課や市政情報課を立ち上げ、まだまだ上手とは言えないものの、YouTubeによる久喜市PR動画なども最近では積極的に配信するようになりました。ようやくですが今年になってから各公共施設に無料の Wi-Fi のアクセスポイントを整備したり、市役所本庁舎や各総合支所の窓口にキャッシュレス決済を導入するなど、少しづつではありますが市民サービスのデジタル化を図っています。
さらに行政事務の効率化の観点から会議録作成支援システムを導入したり、AI(人工知能)やRPA(定型業務やデスクワークの自動化)を活用し、業務を自動化するための実証実験を行い一定の効果を得たところです。
これからの社会は、今年から本格的にスタートするGIGAスクール構想※により、今の小中学生たちが大人になる数年後には、本格的なデジタル社会が到来するのではないかと思っていますし、ICT(情報通信技術)は、子どもから高齢者までのあらゆる世代において、生活に欠かせないものとなるだろうと思っています。
(※GIGAスクール構想とは、文部科学省が提唱した、児童生徒のために、1人1台の学習者用PCと高速ネットワーク環境などを整備する5年間の計画です)
私の市政のモットーは、「久喜市をもっと良くする」です。スマートフォンやインターネットの普及などにより、市民の皆様の暮らしにICTが大きく関わっており、コロナ禍における「新しい生活様式」においてもICTが果たす役割は大きいものと思っています。市民の皆様の暮らしをもっと良くする、市役所の業務効率をもっと良くするためには、ICTは効果的なツールであるという考えから、積極的にデジタル化に取り組んでいるのです。
縦割りの組織を打破して作られた「攻め」のデジタル戦略室。
加速する行政のデジタル化の流れに対応していくために。
——今年度、新たに設置された「デジタル戦略室」について、その設置のお考えをお聞かせください。
(梅田市長) 市役所のデジタル化に積極的に取り組むためには、国のデジタル庁創設の理念に共感した部分もありますし、縦割りの組織を横断的に所管する組織が必要であると感じました。「デジタル戦略室」の名称には、これまで維持管理が中心だった情報推進課に対して、「戦略」という言葉を使い、積極的にデジタル化を推進していく「攻め」のイメージを込めています。
市民の皆様のライフスタイルが変化していく現在において、ICTを多用した市民サービスや、行政事務を導入するための「デジタル戦略室」です。電子市役所を目指して、久喜市情報化推進計画を策定し、ICTを活用した市民サービスの向上や行政運営の効率化を図ってきましたが、このコロナ禍により行政のデジタル化の遅れが様々な面で露呈する形となってしまいました。一方で、令和2年12月に総務省による自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画が示されましたから、行政のデジタル化は一気に加速していくものと考えています。
久喜市としても、その流れに乗り遅れないように…そのためには、縦割りの組織を打破し、柔軟に対応していく組織が必要であると考えまして、デジタル戦略室を設置することとしました。
——そういった市役所のDX(デジタル技術による変革)に関してどのように進めていこうとお考えでしょうか?
(梅田市長) デジタル戦略室を中心に、「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」に基づき(注)、行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して住民の利便性を向上させるとともに、AIなどを活用して業務の効率化を図り、これによって創出された人員や時間を行政サービスの更なる向上につなげていこうと考えています。
このうち、久喜市では、AI・RPAについては、令和2年度に実証実験を行うなど、他自治体に先駆けてDXに取り組んでいるところもあります。デジタル戦略室長には、自らの足で各課を回り、各部署で行っている改善の余地がある業務を選別し、ICTによる業務の効率化を図ってもらいたいと常々申しております。また、デジタル戦略室に限らず各職員には、行政サービスをデジタル化することで、市民の皆様の利便性が向上することや業務効率が向上することがあれば、積極的に失敗を恐れずチャレンジしてもらいたいと思っており、職員の意識改革も非常に重要な課題と言えるでしょう。
行政にデジタルサービスを導入しても、利用していただかなければ意味がない。
デジタルデバイド解消に向けた対策は大きな課題。
——『デジタル化行政』先進国である北欧諸国などの事例にもありますように、行政のデジタル化と表裏一体の課題としてデジタルデバイド(情報格差)の解消があると思います。今後の市役所のデジタル化において、市民間のデジタルデバイドに関するお考えを教えてください。
(梅田市長) デンマークやエストニアは、先進的な「電子国家」として、私もしばしば耳にしています。これらの国々は、国を挙げて官民のサービスの電子化そしてデジタルデバイドの解消を進めていますね。デンマークでは2000年代初頭から(デジタル化に)取り組んでおり、日本の20年先を進んでいるのかもしれないですね。今の日本では、山間地や離島などへの高速大容量の通信網の整備や、スマートフォンの利用料金値下げなど、まずは日本全国、全ての国民がスマートフォンを利用できる環境づくりが実施されているとは感じていますが、その環境を十分に活かしきれていない現状もあるのではないかと個人的には思っています。
久喜市におけるデジタルデバイドの解消については、市内公共施設16施設に無料のWi-Fiを整備し、気軽にインターネットに接続できる環境をまず整備しました。また、市内の公立小中学校に通う児童生徒に配布するタブレットに、このフリーWi-Fiの認証をあらかじめ設定し、児童生徒が近隣の公共施設で気軽にアクセスできるようにしています。非常に重要な問題の一つである家庭におけるネットワーク環境によって生まれる情報格差の解消に役立てればと考えています。
今後の取り組みといたしましては、あらゆる世代の皆様に情報リテラシーの向上を図っていただくように推進していくことが喫緊の課題と考えています。行政にデジタルサービスを導入しても、利用していただかなければ意味がないことは自明の理です。そしてスマートフォンの普及率が向上しても、それを使いこなせなければ意味がないと思いますので、誰もが直感的に、簡単にご利用いただけるデジタルサービスを導入する必要があると考えています。また、民間の人材なども活用して、公民館などでスマホ講座などを開催して、できるだけこのデジタルデバイドの解消に向けた取り組みを行っていかなければならないと認識をしています。
(後編:久喜市版「未来の教室」4プラス1のコンセプトの実現に向けて に続く)
(写真は「よろこびのまち久喜マラソン大会」。なお2020年は『久喜オンラインマラソン大会』として開催された。)