デジタルデバイド救済~スマートフォン教室のプロが語る、今横たわる課題~

2022.07.04 インタビュー

 

スマホ教室の事業化に横たわる課題

――家族は怒ってしまって、上手に教えられないという話がありましたが、スマホ教室をやっていて、腹が立つことはないですか。

(豊田)ないです。家族だと怒ってしまうからこそ、私たちがいるのです。教えたことはすぐ忘れます。だから、また教える。でも、忘れる、そしてまた教える。その繰り返ししかないのです。だから時間はかかります。

――今は教室も予算をいただいて、運営しているのですよね。

(豊田)はい。しかし、まだきちんと企業や自治体等と連携して事業化ができているわけではないので、本当に教育できる体制にはなっていません。

――シニアからお金をいただいて教室を運営することはできませんか。

(豊田)それにはチャレンジしたことがあります。パソコン教室のように授業料を設定して、スマホ教室をやろうと。チラシも使って集客しましたが、全然集まらない。シニアはスマホ教室にお金を払わないです。理由は簡単で、携帯キャリアが無料で教室を開催したからです。無料が普通という感覚になっていますから。あれが有料開催だったら、街にスマホ教室が沢山できたはずです。

――スマホの操作は忘れても、無料だという認識は覚えている。

(豊田)それで有料教室は難しい。しかし、キャリアの教室にも問題があります。教えられるのは、彼らの提供するサービスだけです。たとえば、ドラッグストアのアプリを使いこなしたいというニーズがあっても、それはキャリアのサービスではないので、責任を持って教えることはできない。LINEやメルカリですらキャリアのオフィシャルの教室では制限がかかっています。つまり、無料で教えられることはかなり限られているということなんです。

――使いこなして、楽しめるというところまで行くのはかなり難しいのですね。

(豊田)本当はそれを知ると、どんどん使えるようになるのですが、今彼らが持っている固定観念からどれだけ解放させるかですので、道のりは結構あります。

 「ネットを使うとお金がかかる」という認識があって、あまり触らないようにしている人は多くいますが、意外と平気でYouTubeは見る。「ネットを使う=ブラウザで見る」という解釈なんです。YouTubeもネットを使うことになることがわかると、今度は演歌が聴けるアプリを使う。しかし、そのアプリもYouTubeにいくわけです。そして、使いすぎて、家族に怒られる。こういうことを一つ一つ正していくことです。

――他につまずいてしまう原因はあるでしょうか。

(豊田)ネット詐欺問題ですね。毎日のように詐欺のニュースが飛んでくる。それが恐怖を拡大している。ネットは怖い、スマホは怖いという認識になっていき、触らなくなっている人はかなりいます。

――それは男性も女性も同じですか?

(豊田)男性は一度怖い思いをするとずっと怖がります。恐怖体験はなかなか拭えません。そういう人には「何かあったらすぐ来てください」と言っています。丁寧に説明して、恐怖から解放しないともうやめてしまいます。

――代表的なメッセージアプリは安全でしょうか。

(豊田)メッセージアプリの問題は、広告が多いことです。無料スタンプとかキャンペーンのお知らせとか。そういうお知らせがその都度通知される設定になっている人が多いので、「なんか鳴った」と怖がっています。そういう人は教室に駆け込んできます。

――駆け込み寺ですね。もし、なんでも相談できる駆け込み寺が有料であったら、お金払いますかね。

(豊田)払わないでしょうね。無料だから相談に来るのだと思います。キャリアなどサービスを提供している会社が責任をもってやるべきだと思います。ただ、責任を負うということを避けたがるでしょうね。駆け込み寺サービスのような事業をやろうとしている会社もありますが、それをショップでやろうとしています。そうなると人は来ない。何か売りつけられるような印象があるんでしょうね。

 根本にあるのは結局“ヒト”なんですけどね。デジタル化って、何でもかんでもデジタルで解決しようとしますが、必ずそこには人が存在しているはずです。

 

拡大するデジタルデバイド。その本質的な対策。

――いろんな課題が出てきましたが、待ったなしでデジタルデバイドは拡大傾向です。対策についてどう考えますか。

(豊田)最も大事なことは、教える人をきちんとつくることです。教えられるように教育すべきです。じぶんがずっとやってきて実感しているのは、スマホを教えることは特殊業務だということです。「使いこなせているから教えられる」というものではないです。

――使えると教えられるは違うということですね。

(豊田)私のところは、講師にはまず「カタカナ禁止」から始めます。もちろんカタカナでしか通用しない言葉はあります。インターネットとか。しかし、たとえば「アプリ」は「道具」と言い換えられます。「こういうことをやりたいのであれば、この道具」を入れましょうとか。まず全部訳してみるという訓練から始めます。60時間くらいかかるのですが。

 本当に丁寧に教えていくことを覚えないといけないと思います。全員に教えるべきことは、薄っぺらい教科書にしかなりません。たぶん10分程度で伝えようと思えば、できると思います。しかし、それは使いこなすということにはなりません。人によって時間をかけて教えなければならないことも違いますし、癖も違います。たとえば、長押し。すぐできる人と全然できない人がいます。長押しの設定自体を変える必要のある人もいます。何秒押せば、長押しとするのかとか。

――つまり、ケースバイケースの連続ですね。

(豊田)そうです。人によって全然違います。躓く場所も違います。このあたりの感覚を身につけ、丁寧に対応することを身につけてもらいます。そういうきちんと教えられる人を育てる環境が必要です。

――教えていく中で大切なことはなんですか。

(豊田)諦めないこと、諦めさせないことです。教える側が諦めれば、教わる方はすぐに諦めますから。

――どうやっても、無理だから諦めさせたほうがいいと思うことはありますか。

(豊田)ないです。絶対に諦めさせません。

――そもそも講師自体足りていない。さらにきちんと教えられる人は少数しかいない。
しかし、人が育っていかないのは、そもそも需要はあるのに、それに見合うお金が入ってきていないことに問題がありそうですが。

(豊田)そうなんです。日々、それとの戦いです。企業や自治体に訴え続けています。素晴らしいサービスがあるのに、使ってもらうための教育がおろそかになっている。全ての人に使いこなしてもらうためのことが大事だと。作って終わりというように見えてしまいます。アプリを提供している企業、スマホを売っている販売店、そこに関わる人たち、これらをまとめることが自治体の仕事だと思います。

 その訴えこそが私の使命だと思っています。少しずつですが、磐田市のように動き出した自治体が出てきていまし、愛知県はその動きがやや遅いと思いますが、知立市が積極的になったように、少しずつ動き出しました。今が頑張りどきです。

――教える人に教えるという活動については理解できてきましたが、もうひとつの「教える母体」としての「家族」への教育についてはどうですか。

(豊田)当然、家族は重要ですね。自治体からも親子で学び合うコミュニケーションを育てられないかという課題はいただいていますが、なかなか難しいです。子どもが親に教える場面が多いと思うのですが、子どもはすぐに諦めてしまいます。諦めてはいけないのですが。そして、今の子どもの感覚は幼くなっている印象です。教えられるかなと不安です。

――インタビューをしたことのある自治体から教えていただいたのですが、エストニアやデンマークは孫がおじちゃん、おばあちゃんに教える仕組みができているそうです。それを模範に関係づくりに取り組んでいるそうですが。

(豊田)とてもいいことだと思いますし、大切だと思います。なんとなく使い方は教えられる子どもは多いと思いますが、本質的に怖さを拭って使いこなせるようになるというところまでは難しいと思います。もっともっと使いたいと思う気持ちを育てることですね。
もともと、今の子どもは忙しくなっています。だからこそ、子どもたちに「どう教えるか」を教えることが必要です。

 

目標は、いつでも「聞ける環境」をなんとか作っていくこと。

――明確な使用目的があると学ぶことも早いと思います。

(豊田)その目的をつくってあげることですね。人それぞれのきっかけをつくることです。学ぶ人から目的を引き出す。そのあたりが子どもには難しいです。

――Wi-Fi環境があることも大事だと思いますが、ないお年寄りもいますよね。

(豊田)家族と同居されている人はいいのですが、お一人だとまずWi-Fiはないです。そこで近所のWi-Fi環境のある場を教えています。

――細かいことまで教えないといけませんね。

(豊田)はい。とても細かい話です。しかし、その細かいことに付き合うことが大事です。地道にやっていく。自治体が推進するキャッシュレスに対しても恐怖も、何を怖がっているのかを見つけ、こうすれば得だということを教えてみてやっと、「やってみようかな」という気持が生まれます。そして、一緒にコンビニで一緒に買い物をしてみるという体験をして、身につけてもらう。そこまでやって、やっと使えるようになります。

――最後に、豊田さんの今後の展望を教えてください。

(豊田)いかに事業化するかです。なんとかしたいのです。「聞ける環境」をなんとかすることが私の勤めです。そして、これでずっと食っていくようにすることです。お金をもらって、継続させることこそ‟仕事“です。だから事業化です。何年かかるかわからないですが、続けます。

合同会社Prof
https://www.prof.co.jp/

 

 


<編集後記>

 デジタルデバイド解消のために、教えるしくみが必要になる。そして、その「教室」を次々とつくる。スマホ教室は、その最たる例だろう。

 私たちが「教室」と聞いて思い浮かべるのが、日本式の教室である。先生が教壇に立ち、生徒が向き合うように机を並べる。この向き合いを重視する。生徒が見ているものは、先生である。発せられる言葉の指示に従う。わからないことや疑問が生じてもその都度止めることは難しい。先生を見るのがだんだん辛くなる。諦めたくなる。本当に生徒が見るべきものは先生だろうか。

 デジタルを身につけた自分の明るい未来なのではないか。そのためには、先生は生徒に向き合うのではなく、横に座って同じ方向を見ること。そして、同じ明るい未来を見続けること。一人一人の横に座って、一緒に明るい未来に向かって取り組む。そこに乗り越える力が生まれる。

 丁寧に、丁寧に同じものを見ながら考える。この根本に現場は気づいている。従来の「教室」の限界とその越え方に気づいている。しかし、その声はなかなか国に届かない。現場と国もまた、同じ方向を見て、ともに考える立ち位置になっていない。ただ教室という箱をつくるのではない。それが問題解決の場だというなら、その箱は壊すべきである。

 今こそ、私たち一人一人が現場で考えよう。


取材
デジタルわかる化研究所 岸本暢之 西村康朗

 

 

 

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