<後編>【1時間徹底議論書き起こし】シニアDXーバリアを解き放て!
(MARKETING・X 2022より)

2022.05.30 シニアDX特集

 本稿では2022年1月18日、19日に開催された「MARKETING・X」のセッション「シニアDXーバリアを解き放て!」の模様をお届けいたします。(以下敬称略)
前編はこちらから

<登壇者>

近鉄都ホテルズ
営業企画部 執行役員
能川 一太
近畿日本鉄道で、駅や駅ビル、美術館などの設計、建築を担当。その後、観光特急「しまかぜ」のサービスの立ち上げ、観光地への旅行プロモーションを実施。志摩スペイン村の支配人を経て、近鉄が経営するレジャー事業を担当した後、 今は近鉄都ホテルズでマーケティングを担当。

 

株式会社ペンシル
代表取締役社長
倉橋 美佳
ペンシル入社後、通販サイトを中心にサイトの企画運用・プロモーション設計・運用等、総合的なWebコンサルティングに従事。仮説と検証に基づく改善実施のためのサイト分析ツール「スマートチーター」を自社開発。イベントや講演会では講師やモデレーターとして多数登壇。SFO(シニアフレンドリー最適化)をはじめ、デジタルデバイドの解消に向け取組を推進中。自社では300人のシニアモニターも抱える。

 

三重県庁
最高デジタル責任者
田中 淳一
18歳で起業、(株)ユーグレナ 取締役、(株)コークッキング 取締役なども務めた。地方創生に関連して、地方自治体と連携し、少子化対策やジェンダー平等などにも取り組んだ。2021年4月より、三重県 最高デジタル責任者(CDO)に就任。ジェンダー平等とダイバーシティ&インクルージョンに基づく「寛容な社会」を前提条件として、みんなの想いを実現する「あったかいDX」を推進している。
※今回は事情により現地参加が難しくなったため、事前収録した動画でのご出演となりました。

 

<モデレーター>

デジタルわかる化研究所
渡辺 澪

 

 

 

(渡辺)さて、ここまではシニア世代のデジタル活用度合いについて議論してきましたが、後半はそんなシニア世代に対して、私たちはどうしていくべきかをテーマにお話していければと思います。

 

シニア目線になっていない購買体験

(渡辺)そもそも、現状デジタル上でシニア世代は気持ちの良い購買体験ができているのでしょうか。

(倉橋)まだまだ出来ていないと思っています。シニア世代への対策を考える際、文字の大きさや視認性、ボタンの押しやすさなどの身体的な負担を考えがちですが、実は「探したいものが見つけられない」ことがシニア世代の購買体験における大きな阻害要因になっています。操作性は二の次だったりするので、対策における視点のズレがあると、どうしてもシニア世代にとっては嚙み合わない体験になってしまうと感じます。

(渡辺)例えば、某ECサイトでは様々なお店から掘り出し物を見つける楽しさを購買体験として提供していたりもしますが、シニア世代の方はそれだと少し見つけにくかったりもするのでしょうか。

(倉橋)そうですね。商品を探したり比較したりするよりも、欲しいものをすぐに見つけられること求めていると思います。

(渡辺)デジタル上で使われる言葉も、シニア世代にとっては難しい部分もありますよね。

(倉橋)例えば「エラー」が分からないという人も少なくありません。「クリック」「スライド」「タップ」などの簡単な操作表現も分からないこともあります。そういった言葉の使い方は気をつけないと、そこでサイトから離脱してしまう方も多いと思いますね。

(渡辺)「エラー」はどのような言葉に置き換えていますか。

(倉橋)「申し訳ございません。入力に誤りがあったのでご確認ください。」とかですね。電話やコールセンターでの対応を想像して言葉を考えます。このような対応はシニア世代に向けてだけではなく、他の世代に対しても重要だと感じますね。

(渡辺)ありがとうございます。ホテルや旅行の予約に関してはいかがでしょうか。

 

シニアのデジタル活用を企業として諦めるべきではない

能川)これはクラブツーリズムの例です。

全年齢でみると紙による情報入手が多いものの、申し込みになると半々になっています。クラブツーリズムに詳細を聞くと、WEB以外であっても紙ではなく、コールセンターからの申し込みが多く、回線の混雑具合によるストレスがWEB比率を高めている可能性があるいうことでした。つまり「WEB申込ならストレスが少ない」という文脈でWEB利用の比率を高められる可能性があります。しかし、75歳以上になると、情報入手も申し込みもWEBが2割以下になってしまう。

ただ、そこで75歳以上のデジタル活用を諦めてしまうのではなく、お得感や利便性をシニアに寄り添う形で伝えていけば、WEBで取りこぼしてしまっている層を少しでも減らせます。我々もWEBでの利用率が上がった方が当然コスト面では効率が良いので、年齢で線引きせずに対応していくべきと思います。

(渡辺)利便性の伝え方に課題がある、ということでしょうか。

(能川)そうですね。ただ伝え方に加えて「きっかけ」も必要だと思います。そういう意味ではGOTOは良いきっかけになっていたと思います

(渡辺)ありがとうございます。ここまで、デジタルを使っている人に対して気を付けるべき点を話してきました。一方でデジタルを活用できていない人もまだ多いのが現状です。実は、内閣府の調査によると、60歳以上の半数くらいがスマホやタブレットを使っていないことが分かっています。つまり、デジタルにおけるシニア市場の形成はまだまだこれからであり、そういう意味ではデジタルデバイドのような人も含めて市場自体を拡大させていかなければいけない段階でもあります。ここからは、そのために何が必要なのかを少し議論していきたいと思います。

 

官民連携こそがマーケット創出のカギ

(田中)人口が少ない小さなコミュニティの地域では、誰もがデジタルの恩恵を実感する必要があると考えております。例えば、三重県民の誰もがデジタルの恩恵を実感すれば、そこにはマーケットが生まれます。デジタルデバイドの解消をビジネスに繋げて考えることは難しいとは思いますが、官民連携をして、マーケット創出ができると非常に素晴らしいことなのではないかと考えております。
 三重県の桑名市では、キャッシュレス推進のため最大25%のキャッシュバックキャンペーンを実施しました。その結果、地域の商店街で利用するために地元の高齢者同士が教え合い、自然にキャッシュレス利用が拡大しています。つまり、自然にデジタルデバイドが解消されているのです。これはキャッシュバックがあったからだけではなく、とても利便性の高いサービスを提供している民間企業があったからこそです。この圧倒的な利便性こそがデジタルデバイドの解消に非常に重要なところだと思います。ぜひ、民間企業の皆さんと一緒に考えて行動をしていきたいと考えています。
 正直、行政だけを変えても、社会変革あるいはマーケット創出へのスピードを期待することはなかなか難しいところです。このような社会課題解決を、ビジネスチャンスと捉えていただき、どんどんデバイドを解消し、その上で新しいビジネスを回していただくといった良いサイクルを作り上げていければと思っています。能川さんぜひ良いアイデアをお願いいたします!(笑)

(能川)この動画を事前にみてちょっと考えたんですが(笑)以前、三重県のある実証実験に対する参画のご提案をいただいたんです。グループの各事業とも相性が良かったので、グループホールディングスの担当に話をしましたが、結果的には参画しませんでした。なぜかと言うと、実証実験後、本格導入する際に投資した分が回収できるかどうかが不明確なためです。そうなると、グループ会社も乗ってこないだろうし、経営層に対しても説得しにくい。同様のことは他の民間企業でも起こるのではないでしょうか。

もちろん、だからといって全く取り組まないという話ではなく、行政から補助をもらったり、法的に後押しをしてもらったりしながら、民間も一緒にやっていくのが良いと思っています。

(渡辺)当研究所でもデジタルデバイドについて民間企業の方と話した際に、共感は得られるものの、具体的な話になると二の足を踏まれてしまうという経験を何度かしています。シニアDXを進めることで作られるマーケットのビジョンが描ききれていないのは、この話を進める上の課題として挙げられますね。

 

シニアはデータ上の存在でも、特別な存在でもない

(倉橋)高齢社会に対してのリアリティが希薄なのではないでしょうか。データ上は確かに高齢化社会ですが、企業のマーケターの中にシニア世代が参画することはほとんどありません。そこにギャップが生まれる要因があるのだと思います。そして、このギャップを埋めるためには、シニアが身近にいることをリアルに捉えてもらう努力が必要だと思います。
例えば、女性の2人に1人が50歳以上だと聞くと、シニア世代への対応の必要性をより明確に感じられますよね。

また、シニア世代への対応を特別視しがちですが、実際はあらゆる場所にシニアがいます。そう考えるとシニア世代の対応自体、当たり前になるのが健全ではないでしょうか。シニア世代の対応の恩恵はその世代に留まらず、他世代への売上アップにも貢献します。シニア世代への対応が全世代に対する改善につながるんですよね。私は、特別視する意識を変えることが最初に解決しなければいけない課題だと考えています。

(能川)“全世代に対する改善につながる“についてですが、シニア世代に分かりやすいことは、他の世代にも分かりやすいからということですか。

(倉橋)そうです。実際にWEBサイトの改善をシニア視点で行ったことがあるのですが、結果的にシニア世代以外の売り上げも上がりました。分かりやすくなったり、安心・安全が伝わったりすることで、実は他の世代も感じている漠然とした不安が払拭されて、結果的に全世代のユーザビリティを上げられたのだと思います。

(渡辺)今のお話は、まさに実際に取り組んだ企業にしか分からない感覚ですよね。私もシニア世代への対応はシニア世代のためだけであって、他の世代に対しては関係がないと思い込んでいました。このような思い込みを無くしていくことも非常に重要ですね。

(渡辺)最後、まとめに入っていこうと思います。今回の議論を経てテーマのキーワードであるシニアにとっての“バリア”が色々と見えてきました。そして、実はシニアDXを推し進める側にも“バリア”が存在することも分かりました。高齢化社会というのはまだ歴史的には浅いものだと思います。そういう意味でも「シニア×デジタル」はまだまだこれからの領域だと思いますし、そこに取り組むことに対する事業メリットの可能性も十分にあると思います。田中さんからもありましたが、私もシニアDXを推進する上では民間企業の力こそが重要だと思っています。新しい利便性、優れた利便性を提供することで、デジタル活用の輪が広がり、マーケットが大きくなる、結果的に事業拡大にもつながる、そういったサイクルをうまく作っていきたいですね。皆様今日はありがとうございました。