デジタルネイティブの特徴に迫る
なぜデジタルネイティブはデジタルの進化についていけるのか?
「デジタル」の特徴の一つに、進化の早さがある。操作画面上の変更はもちろん、サービス自体が新たに生まれたりと、デジタルの進化は目まぐるしい早さで実装されている。そのため、習ったことがすぐに古くなるという出来事は頻繁に起こりうる。この特徴が「デジタルについていけない」と感じるきっかけになっていることは想像に難くない。事実、当研究所の先行研究「デジタル進化についていけない、と感じるのはナゼ?フリーアンサーから見えてくる3つの傾向」によるとデジタル進化に“ついていけない”と感じる3傾向の1つとして「デジタルのススム速度がはやすぎて、ついていけない」ことがわかっている。
一方で、デジタルネイティブと呼ばれる世代はこの一連の変化に難なくついていくことができている。なぜ彼らはこのような変化についていけているのだろうか?この要因がわかればデジタルを「わかる化」するうえでのヒントが見つけられそうである。
今回はその要因を明らかにするために、デジタルネイティブの中でも特に大きな変化、「授業のオンライン化」を経験し、その進化についていくことができた大学生4名にインタビューを実施した。
<インタビュー詳細>
【話し手】
Aさん: 滋賀県在住大学生
Bさん: 東京都在住大学生
Cさん: 東京都在住大学生
Dさん: 福岡県在住大学生
*インタビュイー4名は全員異なる大学に所属。
【聞き手】
デジタルわかる化研究所 清水出帆
【インタビュー実施日】
2月16日
<インタビュー内での言葉の定義>
用語 | 定義 |
オンライン | 教室以外の場所から参加する授業形式全般のこと。 |
ライブ配信 | リアルタイムで配信される授業形式。 |
オンデマンド | 事前に録画した授業動画を毎週学生に配信する授業形式。またはその授業動画自体の意。 |
対面 | 従来通りの授業形式。 |
頼りになるのは大学より友人
デジタルわかる化研究所:まず、どのような形式でオンライン授業が行われていたのか教えてください。
Aさん:私の大学は頑なにオフライン授業をやりたい風土があったので、教授の判断に任せるところが大きかったですね。教授によってもオンラインで授業される方、対面でされる方、あとは対面の授業もやりつつ遠方から通う学生のために同時にライブ配信も実施する先生もいました。形式が色々混ざっていたのが私の大学だったなと思います。
Bさん:僕の大学では授業への熱量とか人数によっても変わっていました。「楽単」(楽に単位が取れる授業の意)と呼ばれるようなあまり熱量の高くない授業だと「学校専用のドライブにアップされている動画を各自見て、テスト受けといて」という形式でした。ただ、熱量の高い少人数制のクラスなどではZoomを使っており、先生によってまちまちでした。
Cさん:私のところも似ています。教授の熱量によってオンライン授業形式・内容がとても変わっていました。熱量がある先生だとオンデマンド動画に授業のレジュメや資料も添付してくれる教授もいました。逆に楽単の授業だとオンデマンド動画のURLのみ添付して、「課題を一週間後に提出してください」みたいな形式でした。しかもそのオンデマンド動画の時間が15分から30分ほどの短尺のもので、本当に教授によって違うなと実感しました。
デジタルわかる化研究所:授業形式や時間が教授によって変わってくると従来の時間割が機能しなさそうですね。
Cさん:そうですね。時間割通りに受けている人は少ないです。たとえば水曜のオンデマンド動画を土日とか夜とか暇な時に受けたりしていますね。
Dさん:私も時間割を守っていません。1年生の頃は対面授業だったので、時間の都合で単位取れなかったことがあったのですが、今は時間を自由に変えられるので単位が取りやすくなりました。
デジタルわかる化研究所:受講する時間が自由になるとトラブルがあった際に苦労しそうですね。
Aさん:そうですね。私Macを使っていて、ライブ配信授業で使うツールがMacだと上手く機能せず、音声が聞こえなくなるトラブルがありました。同じような状況の学生が何人もおり、後々オンデマンドで視聴する形になりました。
デジタルわかる化研究所:そういうトラブルが起きた際には誰に相談していましたか?
Aさん:自分で何とかするか、同じ学部学科の友達にLINEして解決方法を教えてもらう学生が多かったのではと思います。 オンライン授業って先生に聞くより友達の方が詳しいと思うので。すぐに聞きたいなら事務所にメールするよりLINEですね。
Cさん:本当に教授に頼る人っていないですよね。僕も仲いい人たちに LINE で聞いて、そういう技術面のトラブルは解決していました。
何を押すとどうなるのか、わかっていれば難しくない
デジタルわかる化研究所:こういったトラブル解決はいつごろからできるようになったのでしょうか?
Aさん:いつからかは明確にはわかりません。トラブル解決しているという感覚がなかったのかもしれません。ネットで調べればいくらでもやり方は見つかりますし、そもそもZoomにしろ Google Meetsにしろ、そこまで難しい操作でないと思うので。トラブルがあったら焦りはしますけども、調べればすぐわかるからすぐ調べるみたいな流れは日常的な慣れですね。
デジタルわかる化研究所:そこまで難しい操作でないと思えた「日常の慣れ」はどうやって身に着けたのでしょうか?
Bさん:たとえばフリック入力は友達が使っているのを見て知った記憶があります。最初はあの連続でタッチして「あ・い・う・え・お」と入力する感じだったと思うのですが、友達が使っているのを見て「何それ?」っていうところから始まったっていうのがきっかけじゃないかなと思います。
Aさん:私も自分でやってく中で分かって、「これってフリック入力って言うんだ」と後から知ったタイプかもしれないです。最初に経験があってその後で呼び方を知るといった感じでした。
Dさん:僕の場合、中2ごろに授業があったので、そういうの機会に教わりました。
*確認するとインタビュイー全員中学高校でデジタル機器の操作を習った経験があることが判明。
デジタルわかる化研究所:ただ、進化の早いデジタル関連の操作は教室で習ったことと実際に世間にあるものでは全く同じということはないと思います。そんな中でもついていくことができるのはどうしてなのでしょうか?
Aさん:小さい頃からパソコンでアニメ動画を見ていたからかもしれません。ここ押すと再生されるとか、ここに入っているとか、日常の中で使う機会があったから身についたのかもしれません。だから今でも動画の下にバーがあれば再生時間なのだろうなと見当をつけられるし、バッテンは閉じるのだろうなと予想できます。
Cさん:その通りですね。デザインが違うだけで機能は大体同じ。操作も、見方も一緒っていうのは感覚的に覚えています。どんなサイトでも右か左上にはメニューがあるみたいな。デジタル機器の操作って基本押すだけなので、押すと何が起こるのかさえわかっていればそこまで複雑な操作になっている認識はあまりないのではないかなと思います。
Bさん:僕は中学生くらいから毎日スマホを触っているので、当たり前のように左の矢印だったら戻れて、それがパソコンでも同じ操作だけっていうような認識なのかなと思っていました。
楽しいからこそ身につく
デジタルわかる化研究所:ちなみに中学生の時に毎日スマホを触れていたのはどうしてでしょうか?
Bさん:当時パズドラがめちゃくちゃ流行っていて、まわりのみんなもやっていた時期でした。その攻略を見たいところでネットを調べるようになったことが大きいかなと思っています。スマホを持つ前は攻略本買ってみたりもしましたが、便利なものが手に入って、「ならデジタルでいいや」と切り替わっただけではないかなって思っています。
Aさん:付け足していうと、やっぱりパソコンと違ってスマホは子どもでも触らせてもらえたのが大きかったのかなと思いますね。私の場合当時母親がアメブロをパソコンで書いていて、それにあこがれていました。ガラケーからスマホに変えたときには、アメブロが自分でもできると気づいて進んでいろいろ知ろうとしていました。最初は好奇心でその後は必要に迫られて調べていきましたね。
Cさん:小さい頃って好奇心すごくあるじゃないですか。たとえば、ゲームの最新機種が出たらみんなそれで遊ぶみたいな。そういう新しいデジタル機器に自分たちも興味があって、引き寄せられて。その一環でスマートフォンに触ったのがきっかけなんじゃないかなと思います。子供は革新的なものに引かれるのかなと思います。
デジタルわかる化研究所:ありがとうございます。ここまでのお話を踏まえて「なぜデジタルネイティブ世代は「デジタル」の進化についていけているのか」がわかったように感じます。
…
インタビューを振り返って
今回のインタビューを経て、デジタルネイティブがデジタルの進化についていけている要因は下記の3つの段階で説明できるのではないかと考えた。
1. | 【蓄積】デジタルネイティブたちはデジタルにまつわる多方面での経験値を蓄積してきた。 |
2. | 【習得】この大量の経験値をもとに、彼らはデバイスやサービスを超えたデジタル世界の共通認識を帰納的に習得した。 |
3. | 【応用】この共通認識を進化したデバイスやサービスに応用することで、デジタルの進化についていけている。 |
第1段階での経験値の蓄積とは、パソコンでの動画視聴やゲーム、ブログの執筆作業の過程で得られた知識のことある。これらの経験値すべてが①「楽しい」感情で取り組む状況②教えあう環境が整っている状況の2点で蓄積されていることがインタビューから判明した。また、第2段階での共通認識の具体例としては、インタビュー内での「バッテンで閉じる」「左矢印で戻る」といったものが挙げられるだろう。このようなデバイスやサービスを超えた共通認識を自身の中に確立できているために、デジタルネイティブたちはデジタルの進化についていけているのだろう。
ともすれば、デジタルデバイドの解消には共通認識を得るのに十分な「経験値」を蓄積することが必要になるだろう。そのためにも、デジタルデバイドにある人たちが「楽しみながら」、「教えあう環境」の整備が喫緊の課題だと言えそうだ。
デジタルわかる化研究所 清水出帆