事例から見るシニア向けサービスの落とし穴

2022.01.18 シニアDX特集

 「シニア市場を捉え、ヒットを起こすことは難しい」といった声が上がっている。超高齢化社会において、「シニア」と呼ばれるターゲットは増加傾向にあり、母数は多いはずである。なぜ、シニア市場でヒットを起こすことは難しいのか?国内外の事例からその課題を考察していく。

 

日本のシニア向けサービスの実状

 FCNT株式会社が運営している50代以上のユーザーが多く集まるSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、「らくらくコミュニティ」。登録者数は2021年8月時点で220万人を超える。特に60代以上の利用者が多く、男女問わず利用されているコミュニティとなっている。現状、日本最大級のシニア向けSNSと謳っているが、他の一般向けSNSと比べた際の実状はどうだろうか?
 2008年から日本に上陸したFacebookの国内の年齢別ユーザー数における60代利用者数は、2019年時点で498万人※1となっており、2013年から開始しているらくらくコミュニティの最も多いユーザー層である60代の利用者数は6万人程度となっている。開始時期や知名度の差はあるにせよ、これほどまでの差を見ると、重複するユーザーはいるにせよ多くの60代はらくらくコミュニティではなくFacebookを選んでいるといえる。海外ではどうだろうか。

 

多くの企業が撤退をした中国のシニア向けサービス事例

 中国では、1979年から2015年まで行われてきた一人っ子政策が全体人口の偏りを生じさせ、高齢化が進んでいる。日本ほど高齢化社会にはなっていないものの、シニア人口は日本よりも多く、シニア市場へ多くの企業が挑む中国の事例で検証をする。

 そんな中国で、2010年代前半からあるブームが巻き起こった。早朝や夜の公園で、10人ほどから多い場合は100人以上の中高年の女性たちがスピーカーから流れるヒット曲に合わせて踊る「広場舞(ゴンチャンウー)」と呼ばれるダンスだ。健康志向の高まりや地域住民の交流促進、さまざまな統制がある社会でのストレス発散などが背景にあるとされている。

四川省成都での広場ダンス Image credit: Baidu Images(百度図片)

 中国のあらゆる都市の公園や広場には、休日や夕方に集まって広場舞を踊るサークルが存在する。「なんとなく」で集まる比較的ゆるいサークルから、専門のユニフォームをそろえているようなサークルまでさまざまである。各サークルには、指導員と機材担当を兼ねたリーダーのような存在がいて、リーダーに参加費を支払うことで参加可能となる。そして、中国のIT企業はこの「広場舞」をビジネスチャンスと捉え、様々な機能を加えた「広場舞アプリ」を開発した。

広場舞の火付け役 「Tangdou(糖豆)」https://www.tangdou.com/

 

 BGMやお手本となるダンスの動画を提供するアプリであり、最盛期には60もの広場舞アプリが展開されていた。動画によるダンス教室、衣装や健康グッズなどのネットショップ機能、ユーザー同士の交流ができるコミュニティ機能を付加するなど発展した。しかし、そのほとんどの広場舞アプリが撤退したのである。
 中国社会ではスマートフォンありきの前提になっていることを考慮すると、デジタルを使えないからサービスを使わないのではなく、単に選ばれなかったという、日本と似たような状況に陥っていると考えられる。つまり、デジタルサービスを使用している多くのシニアにとっては、シニア向けではなく一般的なサービスを選ぶという落とし穴があると考えられるのだ。

 両国ともに、度合いの差はあれ高齢者のデジタル活用は進んでいるにも関わらず、シニア市場におけるヒットを生み出せていない。しかし、シニア向けサービスはヒットしようがないのかというと「そんなことはない」というのが私の意見だ。選ばないのはあくまで「今デジタルを活用できている高齢者」であって、デジタルを活用できていない高齢者もまだ多い。

 シニアにスマホが浸透してきている現在においても、上記のデータが示す通り、65歳以上は4割程度、75歳以上だと半分以上の割合で一年間インターネット利用をしていないシニアがいることがわかる。ヒットを起こすための市場としての価値は高いと言えるのではないだろうか。
 この層をターゲットとして狙うことがヒットに繋がる道であると考えるが、そのためには、ターゲットのニーズを満たす必要がある。らくらくコミュニティの特徴的なサービスポイントとして、以下があげられる。

―――――――――
・フォロワーに対して投稿するのではなく、趣味や気になることでセグメントされたコミュニティに対して投稿するため、「反応をもらえる」体験が得やすく人とのつながりを感じられる。
・情報漏洩や詐欺を防ぐため、運営者が24時間365日投稿を監視している
・シニア向けのわかりやすいUI
―――――――――

 上記は、全年代をターゲットとしている一般的なSNSでは実現が難しいことが多く、シニア向けのらくらくコミュニティならではの仕組みと言えるだろう。そして、これらのサービスは、デジタルを普段利用しているシニアにとってではなく、「デジタル初心者のシニア」にとって最適であると考える。つまり、これからデジタルサービスを利用していきたいシニアにとって、デジタルサービスの「入り口」としてらくらくコミュニティを推奨していけるのではないだろうか。
 加えて、そのような「デジタル初心者のシニア」に対して、適切な接点で誘導していく施策を講じることが大切だ。らくらくコミュニティは、らくらくスマートフォンを手掛けるFCNT株式会社が運営しており、同社が行っている「スマホ教室」がその接点として考えられるだろう。スマホ教室の授業の中で、らくらくコミュニティのメリットを伝え、デジタルサービス導入として誘導を行うことができる。

 

シニア向けサービスの今後について

 ヒットを生み出すために「デジタル初心者のシニア」を狙うことは、他のシニア向けサービスにもいえるだろう。例えばシニア向けECサイトを運営するとする。先述の通り、すでにデジタルを使っているシニアに対して、いくら「セキュリティレベルの高さ」や「入力フォームアシスト」「見やすいフォントサイズ」などシニア向けの機能を考案しても、一般的なECサイトに勝つことは難しい。デジタル初心者に対して、そういったサービスをリアルの場などで伝えて誘導し、「初めてのECサイト」という立ち位置を確立していくこと、つまり「デジタル初心者のシニア」に対して、いかにデジタルサービスの入り口として自社サービスを届けられるかということが大切になる。

 シニア向けデジタルサービスが、より多くのデジタル初心者シニアを取り込むことは、社会全体が明るいデジタル社会に向けて進むことにも繋がる。全ての人がデジタルを通した豊かな生活を実現できるよう、研究所として今後も様々な考察や研究を続けていきたい。

※1:株式会社ガイアックス「2021年12月更新! 12のソーシャルメディア最新動向データまとめ」https://gaiax-socialmedialab.jp/post-30833/ より(2022年1月7日閲覧)

 

(参考記事)高口康太.“高齢者は急速なデジタル化に追いつけるのか?”. 高齢者のデジタルデバイド “取り残さない”デジタル社会の実現に向けて. 2018.07.06. https://www.huawei.com/jp/publications/huawave/30/hw30_feature_story , (参照2022/1/8)

デジタルわかる化研究所 古谷 円香

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