三重県から動かすDX・前編

2023.04.19 インタビュー

県で初めて、全国で初めて。初めてづくしのD Xに取り組んだC D Oと50人の仲間。2年間の軌跡について語っていただいた。

取材・撮影
デジタルわかる化研究所 清水出帆
株式会社分室西村 西村康朗
取材実施日2022年2月22日

 

日本初を次々とつくったCDO 

 2021年全国初の常勤CDOとして三重県庁に籍を置き、「あったかいDX」を推進してきた田中淳一さん。2021年11月の取材ではその思いや志を語っていただいた。
( 前回の記事はこちら http://hbv1001znluz.smartrelease.jp/column/851 )
 その任期はわずか2年。動きにくいものを動かす。そこには変化が必要だ。前回のインタビューでは、田中さんならできると確信した。
 「昭和96年」状態であると語っていた現場。そのまま「昭和98年」になっているのか。令和になったのか。2年で、どう変わっていったのか。2023年3月にその任期を終える直前にインタビューし、その取組を振り返っていただく。

 

確かな手応え

 −この2年間の活動を教えてください。

田中CDO:この2年間は、「デジタル社会形成のトップランナーに資する土台づくり」を目的に活動してきました。2年間という期間もあったので、「圧倒的なスピード」でやるぞということでスタートしました。常勤CDO、50人のデジタル社会推進局、みえDXセンターの設置、これ全て「全国初」でした。
 自分自身も民間から来て、初めて行政に入ったので初めてづくしだし、50人のメンバーももともとデジタル漬けになっていたわけではなかったので、新しい働き方にも戸惑いはあったはずです。結果としては、土台づくりはできたと考えています。

1. 社会におけるDX

「デジタル社会の形成に向けたビジョンの策定」がテーマでした。まず県民の皆さまと「三重県デジタル社会の未来像」をつくりました。未来像に近づけていく「デジタル社会形成に向けた戦略推進計画」(みえデジプラン)を昨年12月に策定しました。
 また、「みえDXセンター」をつくり、さらに、キャリア向けの5Gアンテナ基地局等設置ワンストップ窓口を設けました。「みえDXセンター」や基地局等設置ワンストップ窓口の取組に対して表彰もされ、しっかりやれたと思います。

2. 行政におけるDX

 一方で、行政のDXを進めて、社会のDXとの両輪で機能させることが必要であり、市や町などとも連携していかなければならないのですが、まずは自分たちこの県庁自体のDXです。今、日本には自治体が1700以上ありますが、ほとんどがインターネットに「直接接続」ができていません。仮想環境からつなぐということをしなければならない設定なのでフレキシビリティがありません。パソコンはあるものの、いわゆる消えた年金問題等様々な問題があり、簡単につながらないように設定されてきました。スマートフォンとシームレスにつながれないのです。スマホの普及と同時期に自治体はインターネットとの距離を取らざるを得なかったのです。

 行政はデジタルを駆使しようにも出来ないという現実を受け入れざるを得なかったのです。仕事が閉じた環境になっていました。「民間の普通」と「行政の普通」にはかなり差がありました。この差を埋めるべく、まずは情報共有の方法をつくることから着手しました。新しいワークスタイルの「型」の創造です。50人のデジタル社会推進局ではまずSlackを試行導入しました。

 はじめは「Slackってなんだろう」という人もいましたが、その推進はコロナの影響が後押しになりました。これらを使わなければ仕事が進まない環境になったからです。9割の職員がリモートワークを行うような状況の中で、使ってみると、「意外と便利」と多くの職員が実感したのではないかと思います。 

 もちろん慎重な意見もありましたが、自分たちなりに塩梅を取り、だんだん定着していきました。この50人でできたことで、「県庁のロールモデル」になりました。そして、全員が使いこなしました。これがすごく大きいのです。例えば、どこかの県でSlackを導入しようとしても、ロールモデルがいない。そうなると止まってしまいます。デジタル社会推進局が「スーパーチーム」になったということ、これが最も大きな成果だと思います。今後この50人が別の部署へ異動した際、異動先でデジタルを駆使した働き方のロールモデルとして職員の側にいることで、デジタルとの距離を縮めていくことを期待しています。

(田中氏提供)

 そして、三重県DX推進基盤の構築です。クローズドのαモデルからβ’モデルへの移行、すなわちインターネットへの直接接続です。同時にセキュリティレベルを上げる新しい考え方であるゼロトラストへの転換が必要でした。さらに、Slackは全職員に導入する予定です。

 DX人材育成方針の策定、データ活用方針策定などもできました。私が着任して真っ先に手をつけたβ’モデルへの移行がこの3月ようやく実現します。最速でやって、こんな時間がかかってしまいます。企画して、予算化して、入札を出して・・・。他の自治体でもまだβ‘モデルへ移行できているところはほとんどないのです。これらの活動はとても地味ですが、インフラであり、土台になるのです。

−その土台の上で、次年度からはどうなっていきますか。体制はどうなります?後任のCDOに引き継ぐのでしょうか?

田中CDO:まず、私の任期も終わり、CDOというポジションは廃止となります。ビジョンを構築して土台をつくることは、CDOがやりました。今後はより専門的な人が支援する必要があり、各分野の専門家である三重県デジタル推進フェロー4人に引き継ぐことにしました。拡充です。土台づくりよりユーザーの顔が見えるもっと楽しいフェイズになっていくはずです。

―デジタル社会推進局自体も変わっていくのですね?

田中CDO:デジタル社会推進局は、総務部の中に入ります。県庁内約330の所属が一気にDX推進をしなければなりません。それぞれが推進しなければなりません。そうなると行財政改革と一体的に取り組んでいく必要があると考えたからです。もちろん、「みえDXセンター」も継続し、運営していきます。

−社会DXについてははどうなっていきますか?

田中CDO:「デジタル前提社会」「データ前提社会」への転換を推進します。「みえデジプラン」をしっかり進めていくことです。行政の中の計画はつくった後は忘れ去られてしまうことがあります。だからこそ、啓発しながら進めていきます。そして、「みえDXセンター」もより強化していきます。

−行政DXの今後も教えてください。

田中CDO:新しいワークスタイルの「型」をつくりましたので、これを50人から7500人に拡げていくというフェイズになっていきます。

 DX推進基盤が県庁全体に広がります。しばらくはカオスが生まれるかもしれません。メールからSlackではなく、対面からSlackとも言える大きなシフトになります。職位が上の方々が積極的に変わっていかないと浸透していきませんが、若い世代にも期待しています。若い人から新しい文化を広げていくことです。現にデジタル社会推進局内でも若い世代から文化が広まっていく様子が見られました。これは行政組織では珍しいことです。このようなことがきっかけで組織内のヒエラルキーが柔軟になっていくことも期待できます。

 次に「ユーザー視点」の行政サービスです。行政のサービスは使いにくいとか面倒くさいというイメージがありました。「ユーザー視点」で新しいカタチのサービスを生み出していきます。

 そして、データ活用基盤です。市や町、民間とデータ連携することを進めるべきですが、現状は、まだまだ県庁の中にどんなデータがあるかがわかったというような段階です。データ活用基盤は「データ前提社会」の基幹インフラになるべきものなので、自動車が登場した際に道路整備のルールをつくっていったように、データ活用のルールづくりから丁寧にやっていく必要があります。いろんなステークホルダーの方々との対話を続けていかなければなりません。マイナンバー導入の際にいろんな方が個人情報について不安を感じてきた経緯もありますので、丁寧なルール整備が求められると考えています。

 そして、国が示した「デジタル原則」がありますが、これに合わせて県のルールも変えていかなければならないと思っています。国のルールも変わっていきますので、県としても変えていきます。行政のDXが進めば、社会のDXも進むはずです。

(田中氏提供)

−田中さんらしいのは、バックキャスティングしていることですね。現状分析だけから始めるフォアキャスティングでは事情の説明ばかりになってしまうと思いますが、ビジョンづくりから考えている。未来像から考える。目指すべきものがはっきりしていました。そこが田中さんのやったことの中でも最大の功績だと思います。

 

(前編考察)
 2年前、明確なビジョンを示してくれた田中さん。それは、ありがちな「やれることを全部やる」ではなく、本当にやるべきことを明確にして、自らリードする姿勢。自らが引っ張っていく真のリーダーの姿があった。
 さらには、自らの退任後の道標を明確に示していること。「あったかいDX」が県民に浸透するための土台をつくりあげた実績は大きい。ゴールイメージが描けているリーダーの姿であった。

 後編では、「現場の変化」を探っていく。

(三重から動かすDX・後編)は近日公開予定です。

取材・撮影
デジタルわかる化研究所 清水出帆
株式会社分室西村 西村康朗
取材実施日2022年2月22日

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