ジュンバンウォッチ『本当に必要な情報を共有する』 シンプルな行列の見える化

2024.09.09 行列・混雑解消

そこに本当に必要な情報を共有すること
それを追究するとシンプルになる

行列や混雑を解消する。
それそのものは難しいことなのかもしれない。
しかし、そこで発生するストレスは軽減させることはできる。
行列の見える化。
知りたいことと知らせたいことの可視化。
それだけにしてみる。

Uber Eatsで発注すると、今頼んだものがどこにあるかが表示される。
それだけで「待たされる」ストレスは減っていく。
実際には届くまでの時間が短くなったわけでもないのに、「いつ届くのかわからない出前」が抱える待たされる人のストレスが消えていく。

極めてシンプルなアプリが次々と導入されている。
その人気を考える。

 

株式会社ジュンバンウォッチ
兵庫県南あわじ市の小さなデジタルITC企業。
順番待ちシステム「ジュンバンウォッチ」・トラック予約受付システム「入構ウォッチ」の制作を中心として運営されている。
積極的に営業することは少なく、評判が評判を呼び、導入企業拡大中。
https://junban-watch.com/

代表取締役 中西宏行さん
学校卒業後、東京にてミュージシャンを志す。
南あわじ市に戻り、エンジニアに転身。
会社勤務を経て独立。
たくさんあるデジタル会社の中で「専門性を持つ」「これしかやらない会社」という方針のもと「ジュンバンウォッチ」という社名に。

 

- そもそも順番待ちのwebアプリをつくろうと思ったきっかけを教えてください。

淡路島の繁盛しているレストランからの相談がありました。
行列ができるので、順番待ちのシステムを導入したいと。順番待ちシステムと言えば、「番号が出て、LINE登録とかメール登録とかあって、順番が来たら呼び出す」というようなものしか見たことがありませんでした。

しかし、そのレストランで働く人は年配の方が多い。その人たちでも簡単に使えることが一番求められていたのです。従来のシステムでは全員が使いこなせない可能性がありました。
さらに、観光地なので、繁忙期は限られています。固定費はできるだけ抑えたい。
簡単にできて、簡単に使える方法を考えました。

そこで原点に戻って考えたのです。
・お客様は何を知りたいのか
・お店は何を伝えたいのか

それを紙に書いてみたのです。
・お客様は自分の順番を知りたい
・お店は「もうすぐあなたの番ですよ」と伝えたい

それだったら、直接一対一でコンタクトをとれなくても、一対マスで伝える状況共有システムをつくればいいのだと。

導入第一号となった洲本市の「淡路ごちそう館 御食国」
観光シーズンになるとバスで団体客も来る人気店であるため、混雑する時間も多い。

 

― それが成功し、その後は次々と導入されていきましたね。淡路、関西に限らず、全国で。東京の「巣鴨湯」のサウナ順番待ちは好評ですね。営業活動は大変ですか。

 実は、営業活動はほとんどやったことがなく、HPを通じて、お問い合わせいただくことがほとんどです。利用者の方の紹介もあります。

巣鴨湯さんは、理想的なご利用をされていると思います。
サウナ人気で1時間以上待つ時間もあり、順番の状況がわかれば、行列をつくる必要はない。好きな待ち方ができます。それだけで順番待ちの文句は出ないです。

サウナ料金を払うと渡される番号札。
何番の人が入れるかが店頭表示され、同時にアプリに届く。

巣鴨湯は、東京都豊島区にあるサウナ付銭湯。
「サウナー」が集まり、1時間以上待つ時間もある。

blog「サウナマミレ」での紹介
https://saunamamire.com/review-sugamoyu/

 

- 誰でも使えることが鍵ですね。人手不足を解消しようとして、デジタル化を推進する。それによってそれを「使いこなせない」人が来なくなる。かえって人手不足になるという現象が起きています。だからこそ、誰でも使えるシンプルな構造を貫いているのですよね。

 ミュージシャンを目指していた頃の話です。私はとにかくうまくなろうとしていました。それでやればやるほど、その道の達人のような人が視界に入ってきてしまって、どんどん自分に足りない部分が見えてきました。それでさらにもっとうまくなろうとしていきました。うまくなることだけに注力していきました。

そして、南あわじに戻ってきて、一歩ひいて考えてみると、本来お客様が喜んだり、楽しんだりしていただけることを届けらければいけないのに、そこは全く見ていなかったことに気づきました。
プログラムの世界ももっとすごいこと、クオリティの高いものはあります。しかし、そこは
・すごくなろうとしない
・お客様に喜ばれることを第一に考える
ということを大切にしたいのです。

 

- こんな機能も便利だと思い、多機能にしていくことをせず、シンプルにこだわる理由がわかりました。しかし、そんなシンプルな構造ですら、拒否反応を示す人もいらっしゃいますよね。

はい。そうですね。
まず、そのお店のお客様を考えると、「待つ不快」より、スマホでQRコードを読んだり、番号を確認したりの「導入の不快」が上回ったら、使っていただけないですよね。

ただ、スマホを使わなくても、番号表示はされるので、そこ番号を見るだけでも確認はできるので、お客様は「スマホを使うか、使わないか」の選択ができるわけでシステムそのものに関しての不快はほとんどないはずです。お店にもその選択肢を提供できていることで喜んでいただけることがわかりました。

 

- 待つ不快より、導入の不快が上回ることと進まないわけですね。ファストフード店ではモバイルオーダーできる店も増え、席でオーダーして待てばいいのに、長い行列ができているのをよく見かけます。それが不思議だったのですが、それも待っている人にとっては導入の不快の方が上回っているのでしょうかね。

そうでしょうね。不快の天秤ですね。特に何回も来る場所ではないと思えば、いちいちアプリをダウンロードしないでしょうし、インプットするのも面倒でしょうし。そうなると導入の不快が勝ってしまいます。

 

- ジュンバンウォッチ導入企業での反応はどうですか。

おかげさまで、導入企業様はいい人たちばかりで、とてもいい反応です。「お客様が喜んでくれているんです」という声をたくさん届けていただいています。待たせてしまっているプレッシャーは、現場の人にストレスを与えてしまうので、そのプレッシャーからの解放にも繋がると思います。

 

-たしかに行列ができるお店って、心からの笑顔が少なく感じます。一生懸命笑顔をつくろうとしている感じです。行列はお店の人にとってのストレスですね。

 行列に並んでいる人のことを考えるのでしょうね。「待たされる気持」を強く感じながら働いてしまうのだと思います。「待たされる」を「待つ」に変えていくことに役立てているのだと思います。

 

-現在は何店舗に導入されているのですか。

 100店舗位です。

レストラン、クリニック、さらには出入国在留管理局などでもご利用いただいています。ジュンバウォッチは、アプリではなく、webアプリなので、アプリをダウンロードして、個人情報を取ったりする必要がないです。さらにモニター表示もできるので、スマホがなくてもいい。表示もシンプルなので、言語の問題も少ないのです。

 

-様々な役所でも活躍できそうです。

はい。札幌市では、乳児検診とか十箇所以上でご利用いただいています。個人情報を取らなくていいことが決め手になっているようです。

先日はフィリピンの方からも問い合わせがありました。「呼び出しをしない」というコンセプトに共感いただければ、使い方は広がりますね。この仕組みを利用してトラック予約受付システム「入構ウォッチ」というものもつくりました。入構待ちするトラックって、すごい列をつくっているのです。ドライバーさんに番号を表示してもらう。
https://nyukou-watch.com/

人気のあるアパレルブランドの新製品発売ってすごい行列ができていますね。そこで抽選システムをつくり、行列をスムーズにしていきました。

 

-活用次第でアレンジできますね。

そうです。実際は、お客様によってカスタマイズしていくことは可能で、機能も増やすことはできます。
ただ、シンプルであることを大切にしたいので「あれもできます、これもできます」ということは、今はあまり声高には言わないようにしていますが、将来的には順番待ちがある場所の悩みをなくしていく事業は拡大していきたいです。

 

-「誰でも使えるデジタル」ということで始めた事業。これ本当に大切だと思います。高齢化が進む社会で、ますます活躍していただけそうです。

新しいアイデアも考えたいし、また、いろんな方のアイデアもお聞きして、それをカタチにしていきたいです。
トラックの入構待ちの話も、聞いてからわかったのです。トラックの行列が見えていなかったのですが、意識するとあちこちでトラックの列があることが見えてきました。
見えていなかったものが見えてくる。そこにいるからわかることってありますよね。
そんな現場をもっと知ってお役に立っていきたいです。

 

待つ不快と導入の不快の天秤。
これはデジタル化推進のひとつの鍵になる。

利便性を追求し、デジタル化するが、それがかえって現場の混乱をつくることがある。
よりよいサービスを提供するために、機能を加えて進化していくデジタルツール。
だからそこに、あえてシンプルなものを提供していく。

入口としてのハードルの低さ。
現場の多様化に伴うUXのあり方。

ツールの提供以上に、デジタル格差解消のための社会的価値がある。

取材 デジタルわかる化研究所 松浦裕之 / 西村康朗
取材実施日2023年8月15日
【ライタープロフィール】
〇松浦裕之:株式会社大阪メトロアドエラCMO。デジタルわかる化研究所のメンバーとして初期から参画。

〇西村康朗(左):株式会社分室西村 代表取締役。デジタルわかる化研究所のメンバーとして創設時から参画。
 1986年株式会社オリコム 1990年株式会社博報堂 2020年株式会社分室西村設立

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